2012年11月13日火曜日

電動アシスト自転車のインプレッション

今年もサイクルモードでは様々な試乗車が揃っていましたが、
高級スポーツ自転車だけを試すのは勿体無いと思い、
今まで乗った事が無かった電動アシスト自転車を試してみました。


試乗したのは、今年初めてサイクルモードに出展した
ラオックス・サイクルのTASKALシリーズ。
5万円を切る低価格を売りにした電動アシスト自転車です。


スポーツタイプと婦人車タイプの二車種が有りましたが、
普段と違う体験を求めて敢えて婦人車タイプを選びました。

試乗コースは、スポーツ自転車のコースとは別に
会場の隅に小ぢんまりと用意されていました。
入口で登録証を見せて、ガラ空きのコースに入ります。


---


前々から気になっていたのは、本気でペダルを漕いだ時に
どれだけの加速性能が得られるのかという事でした。

法律で上限出力が決められているだろうから
どうせ大した事は無いだろうと軽く考えながら、
最初からアシストモードを「強」にして漕ぎ出します。すると、


ぶわははは、何だこのロケットスタート!

車重が軽ければ前輪が浮いていたかもしれません。


この自転車の仕様上の定格出力は200Wですが、
道路交通法施行規則では

10km/h未満では人力の2倍まで

という規定しか無いので、瞬間的には本当に人力を3倍にしてくれている様です。

私の出力は、和田峠の自己ベスト記録に基いて
このページで計算した値では211Wだったので、
アシストを受けた合計出力は実に633Wです。

速度上昇と共にアシスト比率が下がる制御(*)さえ無ければ、
車重24kgを計算に入れても、和田峠で8分フラットが叩き出せる事になります。

* 10km/h以上で徐々にアシスト比率が下がり、24km/hで0になります。
これは上述の施行規則で定められています。
ちなみに、和田峠を8分で登る場合の平均時速は27km/hです。

また、アシスト分を加味した動力体重比は私の場合14W/kgで、
ツールドフランス優勝者レベルの2倍です。

……恐ろしいモンスターマシンだ。


---


ところが、加速した直後にヘアピンカーブが控えていました。
急ブレーキを掛けてコーナーに進入しますが、
婦人車特有のホイールベースの長さで旋回半径が大きく、
重い車体が倒れる恐怖も相俟って、ハンドル操作で緊張します。

アウト・イン・アウトを意識しますが、コーナー出口で
壁にぶつかりそうになってしまいました。

実際、お子さんを乗せて電動アシスト車に試乗していた女性の方も
別のヘアピンカーブで立ち往生していましたから、
これは一つの課題なのかもしれません。


---


その後、二つの直角カーブをクリアすると、
坂道でのアシストを体験できるように設置された
急なスロープが立ちはだかります。

ここでも全力で踏み込むと呆気無く乗り越えてしまいました。
これでは電動アシストの有り難味が実感できないと思い、
試乗コース二周目では敢えて脱力してこのスロープに挑みます。

それはまるで追い風を受けて平地を流している様な感覚で、
今まで自転車の弱点とされてきた坂道が
完全に克服できている事が分かりました。

「南向き斜面」といった不動産広告に惹かれて
起伏の多い土地に引っ越してしまった人も、
もはや日々の移動で苦労する必要が無いんですね。


---


バックストレートで再び爆発的な加速を体験してから
直角コーナーを二回曲がるとスタート地点に戻ってきます。

電動アシストのパワフルさは充分に分かったので、
今度は日常の足としての感覚を探るために
力を抑えてペダルをそっと回してみます。

すると、殆ど力を加えていないのにギュンっと一気に加速して、
体が持って行かれそうになり、ちょっと怖い思いをしました。
アシスト開始の閾値が想像していたよりずっと低いです。

現実には前後に子供を乗せ、買物袋も積むでしょうから、
低速域からは一気に加速できた方が
ふら付き防止の観点から好ましいとは思いますが、
パチンとスイッチが入った様な急加速には、
意図しない事故の危険も潜んでいるかも知れないと感じました。

発進直後に死角から子供が飛び出してきた場合などは、
極端に重い総重量が仇になって
ブレーキが間に合わない(*)かもしれません。

* 物理的には車重が増えるほど路面とタイヤの摩擦係数も上がるので
制動距離に影響は無いと説明されますが、
それは無限に強いブレーキ装置を仮定した場合にのみ真です。

電動アシストとはいえ、ブレーキは普通の軽快車などと同じで、
特に前荷重が大きくなる急制動時に重要になってくる前ブレーキが
アルミ板を打ち抜いただけみたいな貧弱な物なのが心配です。
冷間鍛造のゴツいブレーキアーチ、付けてくれないかな。


---


といった感じで婦人車タイプの試乗を終えました。
二台目に試乗したスポーツタイプも寸法や挙動は
ほぼ同じだったので割愛します。

なお、走行性能以外の面では、
手元の操作パネルの電動アシストON/OFFスイッチや
強弱のモード切替スイッチには動作ランプが付いているのに、

前照灯のON/OFFスイッチには動作ランプが無く、
前照灯が点灯しているかどうかが分からない点が手落ちでした。


---


当日は気付かなかったのですが、今考えると
電動アシスト自転車にはもう二つ弱点が有りそうです。


まず一点目は、現実には自転車を降りて押さなければならない状況が有る事。
歩道橋、橋のアプローチ、それに最近増えている地下駐輪場などでは、
スロープで自転車から降りて押さなければならない場合が有ります。

こうなるとアシストが利かない重い車体は一気に不利になりますね。
道路の設計をしている人は、多分こうした不便さに気付いていません。
「安全のため」と言って自転車に不便を強いる設計を今後も続けるでしょう。

地下駐輪場では退場時の上りスロープに限り、
自転車用のベルトコンベアが設置されている施設も有りますが、
あれは狭いベルトに上手く載せないとタイヤのサイドウォールが攻撃される上、
ブレーキから手を離してしまうと突然自転車が後ろに転がり出すので嫌いです。


二点目もこれと関係が有ります。自転車から降りて
ハンドルを持って押し歩きする場合や、スタンドを立てて停車している場合、
重い車体が一旦バランスを崩すと、立て直すのはかなり困難だと思います。

特に子供が乗っている場合は女性の腕力では支えられないでしょう。
私の腕力でも支えられないと思います。

実際、自転車乗車中に子供が遭遇する事故の
31%が停車中、8%が押し歩き中で、
この二種類で全体の4割弱を占めるそうです(*)。

*
『ママパワーが日本を動かす 子どもの安全確保、ママチャリ活動の教訓』
さかいゆき 2007 星雲社 p.33

「降りて押した方が安全」という考えが常に真とは限らない事を
道路設計者は認識する必要が有ります。


---


というわけで、試乗車が豊富なサイクルモードでは
こういう気付きも得られるのでした。