各地で歩道上に自転車通行帯が整備されつつありますが、
この整備手法はあまり有効ではありません。
その一例を、山手通りの写真で見ていきます。
舗装ブロックが赤色の部分が歩行者エリア、
灰色の胡麻塩のような部分が自転車通行帯です。
歩行者エリアと自転車通行帯は植樹帯で明確に分離されています。
が、
自転車通行帯には歩行者が迷い込んでおり、
粗大ゴミ(マットレス)が捨てられており、
それを見た自転車(画面右下)が通行帯を避けて
左の広い歩行者エリア側に進もうとしています。
ほらね。
ここは植樹帯ではなく白線のみで区切られていますが、
自転車は歩行者エリアにはみ出して通行しています。
自転車通行帯と歩行者エリアの広さが
あまりにアンバランスですから、これも無理からぬ事です。
注目すべきは3番と4番の自転車の通行位置です。
写真は両者がすれ違った瞬間ですが、
3番の自転車が通行帯からはみ出しています。
これは、自転車通行帯(2.0m幅)が狭すぎる事を
示唆していると考えられます。
自転車の幅は乗員の体を含めてもせいぜい0.7mくらいですから、
物理的には2.0mの幅の中ですれ違いできるはずですが、
心理的な安全マージン、つまり、
- 4番の自転車が植栽から取りたい距離
- 3番の自転車がすれ違う相手の自転車から取りたい距離
を確保すると、2.0mの自転車通行帯には収まりません。
これが現実です。
2013年1月21日追記
写真で見られる一例はただの偶然かもしれません。しかし、
以前、亀戸駅前の自転車道で私が独自に行った実態調査では、
自転車道を通行する自転車は、車体中心が
自転車道の端から平均で0.73m離れていました。
(標本数93台、標準偏差0.16、非すれ違い時)。
一方、上の写真で4番の自転車は、
自転車通行帯の端(歩行者エリア側)から
14番目の舗装ブロックにタイヤが載っています。
ブロックは一辺10cmなので、レーン端から約1.4m、
植栽側の端からでは0.6mの距離を取っている事になります。
亀戸調査とほぼ同じ値であり、単発的な例外とは考えられません。
すれ違う自転車同士に必要な心理的安全マージンについては、
観察に適した環境がなかなか無いので標本数が稼げませんが、
山手通りの自転車通行帯を走っていると、対向自転車が
歩行者エリアに回避する事がしばしば有ります。
バス停周辺です。
自転車通行帯は植樹帯で歩行者エリアと区分されていますが、
バス停の手前で急な角度(15度)で折れ曲がり、その先で途切れています。
しかし、進路を急に曲げられるくらいなら
初めから広い歩道を真っ直ぐ走るのが
自転車にとって最も合理的な選択です。
実際、矢印の自転車はそのように走っています。
ここでも歩行者と自転車を分離できていません。
上のバス停の手前です。
自転車が歩道エリア、自転車通行帯、車道のそれぞれを走っています。
インフラの形が不適切である証左です。
中でも、自転車が通行する事を全く考慮せずに設計された
危険な車道を敢えて走る自転車がいるという事実は
重く受け止めるべきです。
写真中央の自転車通行帯は、一般市民が自らの身を
危険に曝してまで避けようとするほど酷いんです。
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この記事では、歩道上の自転車レーンでは
歩行者と自転車を分離する効果が乏しい事を指摘しました。
また、今回は詳しく扱いませんでしたが、
自転車が車道を走っていた時代に問題だった
交差点での左折車と直進自転車の事故も、
自転車を歩道に上げただけでは無くならず、
単に衝突の場所が少し移っただけでした。
車と自転車の動線が交差する構造が変わっていないので当然です。
(本来すべきは、両者の動線の交差を時間的または空間的に分離する事です。)
さて、これだけ問題点が有る事が分かっているのに、
山手通りと同じ形式の自転車レーンは東京都では
標準形式とされ、どんどん増殖しています。
靖国通りの防衛省前しかり、
千川通りの桜台駅付近しかり、
西新井駅前の再開発地区しかり、
高島平の六の橋付近の南北道路しかり、
南大井の京急と東海道線に挟まれた区道しかり、
永代通りの永代橋付近しかり、
内堀通りの丸の内パレスホテル前しかり。
軌道修正される気配が全く見られません。
現在は、交通事故はその場で運転していた当事者が責任を問われ、
道路構造の問題には追及の目が向けられないのが普通ですが、
これらの自転車レーンに関しては、
道路管理者である東京都なり自治体なりも
併せて訴える必要が有ると思います。
彼等は危険な構造の道路を作って放置し、
人の命を弄んでいるようなものですから。