2013年12月2日月曜日

ローラー台の騒音低減実験

ローラー台実験の第2弾です。
今回は騒音について調べてみました。

Elite Volare Mag Force Elastogel



ローラー台と言えば振動や騒音が付き物で、
それを軽減する為に様々な手法、製品が考案されています。

その中から今回はホイール・バランシングと
ローラー台専用タイヤを試してみました。


Abstract

An experiment in turbo trainer noise reduction measures.
Wheel balancing made no auditory difference.
Use of a trainer-specific tire reduced the middle frequency noises
at 40 km/h or less.


実験方法

ローラー台の騒音をICレコーダーで測定しました。
校正された騒音計ではないので、
騒音レベルの相対的な違いを比較する実験です。

2013年12月3日書き換え
ローラー台を様々な条件で使い、その騒音をICレコーダーで録音して、
聴覚印象と音圧をそれぞれ比較しました。但し、後者は人の聴覚特性を
反映した値ではないので、データとしてはあまり意味が有りません。

ICレコーダー・YAMAHA Pocketrak CX で録音

座布団の上に載せた三脚にICレコーダーを水平に固定し、
マイクを後輪車軸に向けて、車体の左側に、車軸と平行に置きます。

マイクのセッティング

マイクの高さは床から 45 cm、自転車からの距離は
後輪のクイックリリースレバーから 100 cm としました。
後輪からの風がノイズとして入らないように、
念のためウィンドスクリーンを装着してあります。

ホイールバランスは一般的には鉛のシートで取る事が多いようですが、
今回はとりあえずチューブのバルブナットで代用します。

Continental Race Tube のバルブナット(4個で 5.9 g)

ホイールは都合良くバルブホールの反対側が重くなっていたので、
バルブにナットを付け外しする事でバランスを調整できました。

ローラー台専用タイヤは、比較対象のノーマルタイヤと同じ
Continental 社の製品を使いました。

Continental Hometrainer 700x23C

縦縞模様のトレッド(実測重量は 207 g でした。)

共通条件
  • 録音レベル low, 35
  • 録音形式 WAV, 44100 Hz, 16 bits
  • 測定速度 10, 20, 30, 40, 50, 60 km/h(それぞれ ± 0.5 km/h まで許容)
  • タイヤ空気圧 110 psi
  • 使用ホイール 完成車付属のホイール(リム高さ 28 mm)

条件A
  • タイヤ Continental Grand Prix 4000 s
  • ホイール バランスが崩れている状態

条件B
  • タイヤ Continental Grand Prix 4000 s
  • ホイール バランスが取れている状態(おもりは 5.9 g)

GP4000s の場合は Continental のナット4個でバランス

条件C
  • タイヤ Continental Hometrainer
  • ホイール バランスが崩れている状態

条件D
  • タイヤ Continental Hometrainer
  • ホイール バランスが取れている状態(おもりは 1.0 g)

Hometrainer の場合は Specialized のナット1個でバランス

バランスを取る為に必要なナットの数がタイヤによって随分違いますね。
もしかしたら GP4000s は急ブレーキでロックした時に
局所的に摩耗したのかもしれません。

2013年12月16日追記
リムとタイヤを合わせた高さをノギスで何ヶ所か計ったところ、
案の定、タイヤの一部にフラットが出来ていて、他の部分より
0.3mmほど低くなっていました。たった0.3mmですが、
ローラーを回している時によく聴くとダンダンダンと音がしています。

速度が安定している区間から10秒間を抽出

録音した WAV データは音声編集ソフトの Sound Engine で開き、
10, 20, 30, 40, 50, 60 km/h のそれぞれから、
速度が安定している10秒間を抽出し、平均音量を計算します。
抽出したサンプルは主観評価用にも使い回しました。


結果

騒音を主観的に評価すると、
ホイールのバランス取りではほぼ変わらず、
ローラー台専用タイヤでは劇的に静かになりました。

但し、50 km/h 以上ではローラー台専用タイヤでも
普通のタイヤでも煩さはあまり変わりませんでした。



音圧の値はどうでしょうか。
まずは普通のタイヤから、10秒間の平均値を見てみます。

Grand Prix 4000 s (out of balance)
speed noise gear
10 km/h -50.39 dB 39x26T
20 km/h -46.84 dB 39x19T
30 km/h -40.27 dB 39x15T
40 km/h -38.22 dB 52x15T
50 km/h -34.46 dB 52x13T
60 km/h -35.86 dB 52x13T

ノイズの列の数字にはマイナス符号が付いています。
データ上で表現できる最大音量と比べて、どれくらい小さいかを表わしています。
上の表では 50 km/h の -34.46 dB が一番大きい音という事になります。

「-34 dB」て……。

録音レベルが低すぎました。
本当は、一番大きい音が -0.0 dB になるのが理想なんですが、
自転車を漕ぎながらだとICレコーダーの画面が見えなかったので、
ちょっと慎重すぎる設定をしてしまいました。

Grand Prix 4000 s (balanced)
speed noise gear
10 km/h -50.42 dB 39x26T
20 km/h -47.32 dB 39x19T
30 km/h -40.87 dB 39x15T
40 km/h -37.73 dB 52x15T
50 km/h -34.53 dB 52x13T
60 km/h -34.96 dB 52x13T

こちらはホイールバランスを取った場合です。
数字を見ると、あんまり代わり映えしませんね。
グラフで見るとどうでしょうか。

ホイール・バランシング前後のノイズの変化(GP4000s)

やっぱり微々たる差です。

なお、グラフは見やすくする為に、
元の値に 52 を足して全体を底上げし、
値が 0 から 20 dB の範囲に収まるようにしてあります。
(以下のグラフも同じです。)

dB という記号は絶対的な単位を意味するものではなく、
音の大きさを相対比較する時の尺度の種類を示しているだけなので、
このような処理をしてもデータの本質は変わりません。

ただ、地下鉄の車内が何デシベルとか、工事現場が何デシベル
と言う場合とは数値の意味が違うので注意してください。
ここで示している数値は飽くまで相対値です。

次に、ローラー台専用タイヤのデータを見ていきます。

Hometrainer (out of balance)
speed noise gear
10 km/h -51.5 dB 39x26T
20 km/h -47.11 dB 39x17T
30 km/h -39.49 dB 52x15T
40 km/h -38.07 dB 52x14T
50 km/h -34.61 dB 52x13T
60 km/h -35.27 dB 52x13T

録音を終えてから気付いたんですが、
それぞれの速度で使うギヤを決めておくのを忘れていました。
同じ速度でもケイデンスやチェーンの掛かり方が変わるので、
20, 30, 40 km/h ではそれが結果に影響したかもしれません。

Hometrainer (balanced)
speed noise gear
10 km/h -51.61 dB 39x26T
20 km/h -47.71 dB 39x17T
30 km/h -41.14 dB 39x15T
40 km/h -38.34 dB 52x14T
50 km/h -34.21 dB 52x13T
60 km/h -34.67 dB 52x13T


ホイール・バランシング前後のノイズの変化(Hometrainer)

専用タイヤでもバランス取りの効果はあまり見られません。
唯一、30 km/h で 1.65 dB とやや差が開きましたが、これは
フロントギヤをアウター(52T)にしたか、
インナー(39T)にしたかの違いでしょう。
インナーギヤの方が静かというのは経験的にも頷けます。

ただ、一つ興味深いのは、50 km/h から 60 km/h に上げると
少しだけ静かになるという点です。上の GP4000s タイヤもそうでしたね。
これは聴覚上の印象とも一致します。なんでだろう。

(70 km/h や 80 km/h も調べたかったんですが、
ペダリングのスキルが足りず、そこまで高速で回せませんでした。)


タイヤの違いもグラフにしてみます。

タイヤの違いによるノイズの変化(バランスが崩れている状態)

タイヤの違いによるノイズの変化(バランスが取れている状態)

10 km/h では専用タイヤの方が 1.1 から 1.2 dB ほど静かになっていますが、
それ以上の速度ではあまり差が有りません。50 km/h と 60 km/h では
僅かですが逆転してしまっていますね。

聴覚印象でも、50 km/h 以上になると
どちらも同じような煩さで、
タイヤの違いは聴いても分からなくなります。



さて、以上の数値は物理的な音の大きさであり、
実際に人が聴いた時に感じる煩さとは違います。

同じ大きさの音でも、人間の耳で聴くと、
極端に低い音(例えば 20 Hz)や
極端に高い音(例えば 20000 Hz)は、
中程度の音(2000 から 5000 Hz)に比べて小さく聞こえます。

参考ページ

建築現場の騒音などを計る騒音計は、
こうした人間の耳の特性を織り込んでいるので、
聴覚的な印象と数値が良く対応するわけです。

あいにく手元にそうした処理ができるソフトが無いので
定量化はできないのですが、代わりに Praat で
スペクトラム(周波数ごとの音の強さを表わした図)を出力してみました。

横軸が周波数(0 から 10000 Hz)、縦軸が音圧レベルです。
図はいずれも 10 秒間のサンプルをスペクトラム化したものです。

まずは 10 km/h で漕いだ場合のタイヤの違いを比較してみます。
GP4000s (balanced) の騒音スペクトラム(10 km/h)

Hometrainer (balanced) の騒音スペクトラム(10 km/h)

図の見方を大雑把に言うと、
左の方に高い山が有る場合は「ゴー」という低い音、
右の方に高い山が有る場合は「キーン」という高い音です。

注目すべきは、色を付けた 5000 Hz 以下の領域です。
左端の一番高い山を除けば、専用タイヤの方が
全体的に少し山が低くなっている事が分かります。

普通のタイヤと比べると、
人が聴いた時に目立ちやすい周波数帯域がカットされて、
「ガー」だったのが「ゴー」と落ち着いた感じになっています。

GP4000s (balanced) の騒音スペクトラム(30 km/h)

Hometrainer (balanced) の騒音スペクトラム(30 km/h)

30 km/h での回転時もやはり専用タイヤの方が山が低くなっています。
(10 km/h の図とは縦軸のスケールを変えてあります。)

GP4000s (balanced) の騒音スペクトラム(50 km/h)

Hometrainer (balanced) の騒音スペクトラム(50 km/h)

しかし、50 km/h にもなると両者の違いは殆ど無くなってしまいます。



補足

今回の実験で測定したのは騒音であり、振動ではありません。

ホイールバランスは騒音レベルには殆ど影響しませんでしたが、
サドルに伝わって来る感触からは、振動を弱める効果は
絶大である事が分かりました。

ローラー台専用タイヤも 50 km/h 以上では騒音の低減に
殆ど効果が有りませんでしたが、
振動低減には有効なのかもしれません。

階下の人にどう聞こえるかは振動の問題なので、
また別の実験で確かめてみようと思います。