2013年12月8日日曜日

スケアード・ストレートは有効?

交通事故をスタントマンが再現して
子供に衝撃と恐怖を与える教育手法が有りますが、
あれって本当に有効なんでしょうか。



CiNiiで検索しても全然論文が出て来ないので、
仕方なくGoogleで「スケアード 効果 検証」と検索して
出て来たページを眺めてみましたが、
大半が自治体関連のページでした。



練馬区の公式ページ
平成22年度「事務事業見直し」評価結果に対する区の対応

スタントマンによる交通事故の再現を取り入れた、
スケアード・ストレート方式による交通安全講習は、
受講者の交通事故抑止に対する意識が
より効果的に向上すると期待されるため、
23年度は実施回数を増とする。また、
同業務は、費用対効果が非常に高いため、
上記2の事業の代替として、一般向けにも開催する。

「効果が有ると良いなあ」という期待が
すぐ次の文で「効果が高い」事になってます。
希望と現実を混同してますね。



さいたま市議会議員、神坂達成氏のページ
2、自転車運転における安全教育の推進について
上亟啓介副教育長

// 中略

教育委員会といたしましては、
平成23年度よりその効果を検証するため、
体験した生徒からの感想や今後の決意について調査したところ、
生徒からは、改めて交通事故の怖さを知りました
しっかりとルールを守り自転車に乗りたい
などの声を聞くことができました。

これも、厳密には効果を検証できていません。
仮に生徒たちが本心からこう言っているとしても、
認識と行動が乖離するのは良く有る事です。

「自分はちゃんとルールを守れている」と本人が思っていても、
傍目から見れば一時停止や安全確認を省略していたりするものです。



狛江市の公式ページ
平成23年第3回狛江市交通対策調整会議
委員A

// 中略

スケアードストレイトというスタントマンによる
交通事故再現の実演を見る手法があります。
以前に勤務していた地区で、警視庁から導入前に
効果検証をさせてほしいとの要望がありました。
実際に見ると中学生たちは本当に驚きます
このことが一番効果があるのだと思います
怖いもの知らずで運転するのは中学生や高校生なので、
この時期に一回、インパクトのある動機付けをするのは
効果があると思います。中学生くらいになると
自転車の乗り方について知識や理解力はあるのに、
なかなか正しい乗り方をしないです。このような時期に
動機付けとしてスケアードストレイトは非常に効果があると思います。

この人の発言内容からただ一つ確実に言えるのは、
「スケアードストレイトは子供を驚かせる効果が有る」
という事ですね。(当たり前だ。)
それ以上でもそれ以下でもない。



そんな中、一本だけ出て来た論文がこれ。
警視庁と共同で調査をした学生の卒業論文のようです。

平成 20 年度 日本大学理工学部社会交通工学科 卒業論文概要集
「スケアードストレイト手法による自転車交通安全教育の
実施効果と効果継続性に関する研究」(論文概要URL


交通安全教育の実施効果を検証するため、安全運転に関する
アンケートを交通安全講習の直前と受講1~2ヶ月後の2回実施した。
表-4に示すアンケートに普段の乗り方を振りかえって回答してもらった

// 中略

交通安全講習の効果がどれだけ薄れないかといった
効果継続性を検証するため、危険予測に関するアンケートを
交通安全講習の直後と受講1~2ヶ月後の2回実施した。
表-7に実施したアンケートの項目を示す。
危険が潜む写真を見せ、その危険箇所の発見と
そこでとるべき回避行動を記述回答してもらった

// 中略

本研究で行ったSS的教育手法を導入した交通安全教育の
実施効果・効果継続性に関するアンケート
及び教諭へのヒアリング調査から、
実施効果の有効性と高い効果継続性が明らかとなった

一つ目のアンケートは
生徒の自分自身の運転行動についての認識を調べただけで、
運転行動の実態そのものは闇の中です。

二つ目のアンケートは危険予測力を調べたものですが、
これもまた、危険を予測できたかどうかと、
予測に応じた行動を実際に取れるかどうかは別です。

尤も、この論文(の概要PDF)では何を以て「効果」と見做すのか
定義が書かれていませんから、最後の結論はあながち間違いとは言えません。
(ゴールをあやふやにしておくと便利ですね。)

とはいえ、スケアード・ストレート体験は
あくまで交通安全教育の一環なんだから、究極の目的は
受講者が安全運転を実践するようになって
事故を未然に防げるようにする事
です。意識の改革や知識の習得は中間目標に過ぎません。
そう考えると、やはりこの論文の結論は間違っている。



というわけで、私がざっと見た範囲では、
スケアードの効果を客観的に示した資料は見当たりませんでした。

ちなみに、「スケアード・ストレート」の語源になった
非行少年を矯正する為の映画については、
視聴したグループで犯罪が増えたという研究結果も有るとか。



2013年12月9日追記
私は、交通事故を無くしたいという人々の真剣な思いには共感していますし、
体を張って事故を再現するスタントマンの勇敢な精神も尊敬しています。

ただ、もし客観的な証拠が無いのに「効果が有る」と喧伝して、
それを信じた自治体に費用を出させているとしたら、
警視庁の行為は詐欺に近いものが有りますね。
詐欺罪の構成要件を全て満たすかどうかは微妙ですが。



2014年3月10日追記

シリーズ一覧

スケアード・ストレートは有効?
自転車事故スタント実演の感想 (1) 40km/hでの衝突
自転車事故スタント実演の感想 (2) マナー違反
自転車事故スタント実演の感想 (3) 出会い頭