福岡市道路下水道局(2012年6月1日)「自転車レーン社会実験の結果報告」
調査対象の道路について、1時間毎の
- 小型車
- 大型車
- 二輪車
- 自転車(車道)
- 自転車(歩道)
- 歩行者
こりゃあ良い。いろいろ分析できそうだ。
1. 歩行者通行量との相関
報告書に記載されている
- 歩行者通行量と
- 自転車の車道(自転車レーン)通行率
- 整備前 +0.639(p=0.025, df=10, two-tailed)
- 整備後 +0.671(p=0.017, df=10, two-tailed)
ただ、レーンを整備して車道が以前より安心・快適に走れる環境になったのであれば、歩道の混雑具合とは無関係に、最初から車道を選ぶ自転車が増えるはずです(=相関係数が下がるはず)。しかし、福岡市の調査結果では整備後も相関係数は殆ど変わっていません。
2. 自動車通行量との相関
自転車が通行位置を選ぶ時、歩道の混雑具合の他に、車道のクルマの流れの激しさも影響すると考えられます。
- 自動車(小型、大型、二輪の合計)通行量と
- 自転車の車道通行率
- 整備前 -0.253(p=0.427, df=10, two-tailed)
- 整備後 +0.015(p=0.962, df=10, two-tailed)
この相関係数の差は確かな変化なのでしょうか? それとも偶然でブレる範囲内の変化でしょうか? VassarStats(オンラインで簡易的な統計計算ができるページ)で計算すると、p値(n=12, two-tailed)は 0.562 でした。んー、残念。誤差の範囲内です。
尤も、p値なんてのはデータの個数を増やせば簡単に有意水準に届くようになるので、幾らでも取り繕えます。例えば、
- 通行台数の集計を1時間毎ではなく15分毎にする。
- 計測地点を増やす。
- 調査日数を増やす。
整備前の相関係数が -0.253 とあまり大きくないのは何故でしょうか? 一つ考えられるのは、クルマの通行量が一定水準を超えると渋滞が発生して実勢速度が下がり、自転車にとっては却って安心して車道を走れるようになる、という可能性です。これは、クルマの実勢速度のデータが採ってあれば検証できました。
3. その他の相関
調査結果では、自動車全体に占める小型自動車の通行量は、全ての調査時間帯で8割以上です。その小型車の数字だけを抜き出したら相関係数はどうなるでしょうか?
- 整備前 -0.478(p=0.116, df=10, two-tailed)
- 整備後 -0.202(p=0.528, df=10, two-tailed)
大型車と自転車の車道走行率の相関はどうでしょうか。
- 整備前 +0.012(p=0.969, df=10, two-tailed)
- 整備後 -0.173(p=0.591, df=10, two-tailed)
自転車レーンと車道との距離が近すぎて、トラックに巻き込まれそうでとても怖い。
二輪車の通行量と自転車の車道走行率は、意外にも高い正の相関係数を示しました。
- 整備前 +0.714(p=0.009, df=10, two-tailed)
- 整備後 +0.732(p=0.007, df=10, two-tailed)
あとは、福岡市の実験では調査項目に含まれていませんが、路上駐停車の発生台数も知りたかったですね。アンケート調査の自由記述で、自転車レーン上の路上駐車に言及した回答が非常に目立つので。
4. 福岡市の調査から言える事
実は、福岡市の整備実験では、ただ単に自転車レーンをペイントしただけでなく、自転車レーンの利用を促進する為に
- 供用開始の式典で地元アイドルのHKT48を起用したり、
- スケアード・ストレイト式の安全講習会を開催したり、
- 案内看板を設置したり、
- 市の広報紙や新聞で広報したり
- 「自転車レーンの導入効果を知りたい」という動機と、
- 「自転車の車道走行を促進したい」という動機
さらに、福岡の調査では対照群が用意されていません。自転車レーンを導入しなかった別の路線も同時に調査しないと、
- 本当に自転車レーンの効果で車道走行が増えたのか、
- それとも何か他の要因で車道走行が増えたのか
というわけで、科学的な態度に徹するなら、福岡の実験からは何も言えません。
(思い込みや主観や憶測に基づいて物事を進めても良いなら別ですが。)