2014年11月20日木曜日

【メモ】自転車レーンの事故率の文献

車道の端をペイントするだけで実現できる自転車レーンは
安価かつ迅速に導入できる走行インフラとして注目されていますが、
「自転車レーン」と名の付く物なら何でも良いわけではないようです。

私はまだソースの論文の中身を読めていないのですが、
とりあえずリンクだけ貼っておきます。

2014年11月21日 文章構成を整理
2014年12月27日 デンマーク論文について追記【重要】



CROW (2007) Design manual for bicycle traffic, pp. 117-118

には、自転車レーンの事故率を調査した以下の2本の論文が引用されています。

一つは1988年のオランダの論文で、主要幹線道路に引かれた自転車レーン(ただし、調査対象の自転車レーンは幅や構造が多種多様)は、自転車の走行距離当たりの事故率が自転車道に比べて2倍高く、何の自転車インフラも無い場合(=車道混在)に比べても2倍高いという結果を示しています。
A.G. Welleman, A. Dijkstra (1988)
Veiligheidsaspecten van stedelijke fietspaden

もう一つは1996年のデンマークの論文で、1.2 m 未満の極端に狭い自転車レーンは、それより広い自転車レーンと比べて自転車の走行距離当たりの事故率が2〜3倍高い(ただし、対照群の無い実験なので、自転車道や車道混在と比べての安全性は不明)との結果を示しています。
S.U. Nielsen, M.A. Nielsen (1996)
Cykelfelter; Sikkerhedsmæssig effekt i signalregulerende kryds Rapport nr. 51
2014年12月27日追記

デンマークの論文を読みましたが、内容は交差点内に自転車横断帯をペイントした事で安全性がどう変化したかというもので、単路の自転車レーンの話ではありませんでした。また、横断帯の広狭と事故率の関連についての記述も無かったので、恐らくCROWの引用ミスです。間違えて全然別の文献をリストに載せちゃったのかな? まあ、論文自体はかなり面白かったので、後々詳しく紹介しようと思います。


これらの研究結果を受けて、CROW (2007) p. 118 では自転車レーンの幅員を最低でも 1.50 m とし、自転車レーンにパーキング・ベイを隣接させるのは避けた方が良いとの指針を示しています。

もしどうしても歩道と自転車レーンの間にパーキング・ベイを設けるなら、自転車がドアゾーンに入ってしまわないように 0.50 〜 0.75 m 幅の危険回避帯(a critical reaction strip)を必ず挟むように指示しています(CROW 2007, p. 166)。

しかし同時に、それだけの空間が有るなら自転車レーンの代わりに自転車道を整備する事もできるので、まずはその可能性を検討すべきだと勧告しています(CROW 2007, p. 118)。


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ちなみに、ウクライナの技術者向け自転車情報サイトに上記の論文を引用した簡易ガイドブックが掲載されていて、狭すぎる自転車レーンがなぜ危険なのかを解説しています。

http://velotransport.info/en/wp-content/uploads/01_PRESTO-Infrastructure-Fact-Sheet-on-Cycle-Lanes.pdf

p. 2
The narrow lane forces motorized traffic to drive too close to the cyclist. At the same time, it forces the cyclist to ride too close to the edge of the road or parked cars. Moreover, drivers will mistakenly think that cyclists have sufficient room, will pay less attention and drive faster. As a result, even a slight maneuver by the cyclist to avoid an obstacle is more likely to result in a collision and to cause serious injuries. Narrow cycle lanes should always be combined with speed reduction measures.


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もう一点補足しておくと、以上の文献で語られているのは飽くまで自転車の視点に立った議論で、交通参加者すべてを視野に入れたものではありません。

日本の場合、歩道上での歩行者と自転車の事故が目下の問題ですから、自転車レーンを整備した事で自転車の事故率が大して変わらなくても、交通参加者全体が受ける危険の総量が減るなら一定の意義は有ると言えます。

(そして、どちらかと言えば世間から嫌われている自転車の利益を主張するよりは、歩行者の利益を訴えた方が政治的にウケが良いですwww)