2014年11月9日日曜日

JR東日本には危険学の思想が浸透していない?


いま読んでいる
畑村洋太郎(2006)
『危険学のすすめ——ドアプロジェクトに学ぶ』講談社
に電車のベビーカー挟み発車事故の話が出てくるんですが、
畑村さんと共同で事故の再現実験までしたJR東日本は、
その後、危険学の思想をあまり活かしていないように見えます。



畑村(2006)pp. 136-137
 事故の詳しい状況を説明すると、ベビーカーに二歳の子どもを乗せた母親が発車直前の電車に駆け込み乗車しようとした際、ベビーカーの前部が挟まれた。そして、これをはずそうとベビーカーをガチャガチャと動かしているうちに、前輪の一方だけがドアに挟まれたというのである。驚いたことに、このときドアに何かが挟まっていることを知らせる「発車禁止のランプ」が消えたので電車はそのまま動きだしてしまった。結局、車掌がホームで起こっている異変を自分の目で確認してすぐに電車を止めたのでことなきを得たが、一歩間違えば人命にかかわる事故につながりかねなかった。

この事故、JR東日本以外の私鉄なら起こらなかったかもしれません。


JR東日本以外の鉄道各社では列車が駅を発車する際、
  1. 車掌がドアを閉める
  2. 車側灯が消灯する(同時に運転台の知らせ灯が点灯する)
  3. 車掌がブザー・電鈴で運転士に合図する
  4. 運転士が列車を発車させる
という手順を踏んでいます

しかしJR東日本は作業規則でステップ3を省略しており、
運転士は知らせ灯を見ただけですぐに列車を発車させています。
安全確認に穴が有るまま発車させてしまう構造には不安を感じますね。


もちろん車掌が見落とす事も有るので
ステップ3が有れば絶対に安全だとは言い切れませんが、
事故を防ぐ網が1枚多くなるわけですから
ブザー合図はした方が良いように思えます。

畑村(2006)pp.142-143
先に述べたJR東日本の事故では、被害がなかったので警察沙汰にはなっていない。しかし、「被害がなかったのだからそれでよし」ということでとても済ませられるものではないだろう。

こういう場合、世間ではとかくうやむやにして処理されがちである。JR東日本では、この一件がきちんと関係部署に報告され、「アクシデント」(事故)ではないものの「インシデント」(事件)として処理されたというが、さすがだと思った。

さすがか?


車掌からブザー合図が有るまでは決して発車しない他の私鉄からすると、
JR東日本の操作手順は見ててヒヤッヒヤします。

2002年の事故後、JR東日本はドアの異物検知機能を改善(*)しましたし、
一部路線ではホームドアの設置(*)も進めていますが、
ブザー合図は依然として規則化していません。それで良いのかなぁ……。
(この間、JR西日本とJR東海はブザー式に移行しています。) 
* JR東日本「安全報告書2013」pp. 40-41 (pdf pp. 45-46)



関連情報
駅でのベビーカー事故については下記のページが詳しく論じています。
http://www.geocities.jp/straphangerseye/transport/manner/babycar.html