2015年7月1日のNHK『視点・論点』は古倉宗治氏による「自転車事故を減らすために」でした。内容は、先月施行された講習制度を切り口に、これまで自著で展開してきた主張を簡単にまとめたもので、研究者としての古倉氏の姿勢が10分間で良く分かる番組でした。
不適切な比較
問題提起として日本の自転車事故の多さを海外諸国と比べる事で強調していましたが、各国の自転車利用者数・利用頻度などの違いを無視し、単純に事故件数だけを示す事で、恰も日本が世界最悪であるかのような印象を視聴者に抱かせようとしていました。
他要因の無視
日本で自転車事故が多いのは歩道通行が構造的に危険だからであり、自転車利用者のルール違反が多いのも歩道通行が認められている所為で安心してしまい緊張感を持たないからだとの見解を述べていましたが、車道通行が原則の国でも事故リスクが高く、ルール違反の多さが問題視されている場合が有る事や、日本の道路インフラが自転車にとって非合理で技術的にも未熟である事、安全教育が質・量ともに不充分である事などには触れませんでした。
2015年7月2日追記 ここには後件肯定と呼ばれる誤謬が含まれていますね。
自己矛盾
自転車利用者に緊張感を持たせる為に車道を通行させるべきだというのが古倉氏の持論ですが、番組の最後で、利用者が安心して通行できるようなインフラの整備が進む事が望ましい、と締め括っていました。
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短い時間に多くの詭弁が盛り込まれており、自転車という身近な話題でもあるので、高校や大学の論理学の授業には最適な教材ですね。
また、古倉氏の説が自転車愛好家だけでなく国交省や警察庁にまで浸透している現状と絡めれば、単一の要因で全てを説明しようとする主張(これはプロパガンダの常套手段)がどれほど世間に流布しやすいかも学べます。
加えて、古倉氏の主張の推論と基礎事実の誤りを学生に検証させれば、嘘を吐くのは簡単だが、それに反論するには多大な労力を要するという事を体験させられるでしょう。