2013年9月20日金曜日

国会会議録——自転車を歩道に上げるまで (2)

日本では一体どういう流れで自転車が歩道を走る事になってしまったのか。

国会の会議録がオンラインで検索できると知ったので自転車インフラ関連の発言を探してみました。

前回(1)からの続きです。


前回までのあらすじ

車の急増により交通戦争が深刻化し、歩行者と自転車を車から保護する事が喫緊の課題になる。

当時も今と同じく、市民から警察、建設省、政治家に至るまで、自転車は歩行者のようなものという認識だった。

建設省道路局長の蓑輪 健二郎は、建前上は自転車道を整備すると言いつつ、自転車と歩行者をまとめて歩道に入れるという逃げの手を提案。問題点が指摘されないまま、法案は衆議院を通過してしまう。



yyyy年mm月dd日

発言の要約

/* 補足 */

——発言者(肩書き)



1969年7月8日

参議院本会議です。松永忠二が法案の問題点を次々指摘しています。重要な発言が多かったので、今回の記事はこの会議だけでまとめます。

2015年8月22日 訂正と追記

「本会議」ではなく「建設委員会」でした。それから、個別の会議録に直接リンクを貼る方法が分かったので、URLを追加します。要約ではない原文は下記リンク先で確認できます。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/061/1350/06107081350024a.html


現在の緩速車道は自転車も通るが、小型の車の駐車場にもなっている。

……

ただ、昔と違って今は小型の自動車でも相当のスピードが出る。
自転車、昔の馬車のようなものはもう対象にしなくても良いじゃないか、
という事で、車道と自転車・歩行者を区別していきたい。

——蓑輪 健二郎(建設省・道路局長)

現在の交通状況からすれば緩速車道も結構良いと思うのですが、当時はこういう理由で廃止されたんですね。

いま二輪車用レーンが有る位置にガードレールを設置して
自転車だけが通れる部分にするのか?
そんなに広い国道は少ないと思うし、
私の地元 /*静岡*/ でもそんな事をされたら困る

——松永 忠二(政治家・参議院議員)

車至上主義が露骨です。今でも全く同じ事を言って自転車道に反対する人が大勢いますね。

広くて余裕の有る道路で、しかも
地元が非常に強く要望している場合は、
ガードレールで区切る自転車道を設置する。

自転車道が設置できないほど狭い道路では、
既存の道路の外に2.0~2.5m幅の自転車道を作る余裕が有って、
しかも要望が強い場合は、既存の道路とは別に自転車道を作る。

——遠藤 三郎(政治家・衆議院議員)

道路空間の再配分も、土地買収による拡幅も、「地元の強い要望」を条件にしています。

しかし当時、国民も政治家も車に熱狂し、車道の拡大を切望していたようなので、この条件では自転車道は現実的に有り得ません。

今はむしろ車のための道路を拡幅したい。
その拡幅さえ中々できないのに
自転車道を作る余裕が日本のどこに有るのか。

——松永 忠二(政治家・参議院議員)

たとえば銀座通りに自転車道を作るなど到底考えられない。
しかし郊外ではまだ余裕が有る道路が有る。
地元の強い要望が有る場合、
車の邪魔になりはしないか、
車の通行を非常に阻害しはしないか、
という観点から見て大丈夫であれば自転車道を作る。

——遠藤 三郎(政治家・衆議院議員)

現在の県道、市町村道に対しては
車道を広げて車が通れるようにしてくれ
という要望が圧倒的に多いので
自転車道は設置できないが、
これから新しく作る道路には設置したい。

——蓑輪 健二郎(建設省・道路局長)

世間が車ばかりに目を向けている時こそ、冷静になって、バランスの良い道路構造を考えるべきでは? 自転車の安全を本気で確保しようという気概が有りませんね。
法律をつくる以上は、自転車道を整備できる道路が現実に
どのくらい有るのかが調査されていなければ駄目だと思う。

国民は法律ができれば期待をする。
こういう法律は具体性をもって提案されるべき。
ただ夢をつくるものが法律じゃないと私は思う。
そういうことは政治家として慎まなければいかぬ。

/* 法律を*/ 作った以上はそれが幾分でも実現できると
責任が持てるものでなければいけない。

——松永 忠二(政治家・参議院議員)

名言ですね。単なる「自転車道反対」に見えますが、実はしっかり考えている人のようです。こういう質問をする議員は衆議院には皆無でした。

第五条に「建設大臣は、……道路整備五箇年計画に関しては、
自転車道の計画的整備が促進されるよう配慮しなければならない。」
と書いてあるが、道路整備五カ年計画は既に閣議決定している。
これとは一体どういう関係になるのか。

——松永 忠二(政治家・参議院議員)

もちろん今の五カ年計画の金を
そのまま自転車道に使うわけにはいかない。

ただ、五カ年計画の中には交通安全対策費というものがある。
これは自転車道と趣旨は同じだから、若干の予算を流用できる
将来的には自転車道も計画に入れていきたいが、
さしあたりはごく軽微なスタートをするより方法がない

今は自動車交通を阻害してしまうから
自転車道路を大々的には作れないが、
自転車道路についての認識がだんだん深まっていき、
予算もだんだん付いてくれば、
自転車道路としての格好がだんだん付いていく。

国と地方公共団体は今まで自転車道路に全然関心を持たなかったが、
/* この法律で */ 自転車道路に関心が有るという事を
内外にはっきりと示して、漸次これを整備していく。

——遠藤 三郎(政治家・衆議院議員)

その後、日本は全く逆の道を辿ります。自転車道への認識はだんだん薄まり、予算は付かず、整備は一向に進みませんでした。

/* サイクリングロードの設置義務を定めた */ 第六条は、
なぜ市町村である道路管理者に限ったのか。

——松永 忠二(政治家・参議院議員)

実はこれについていろいろ相談を受けた。

国道、県道の性格からすると、車を通さない、
つまり一般交通の用に供しないというのは不適当ではないかと考えた。
/* サイクリングロードの整備をさせるなら */
市町村道が妥当ではないかと考えている。

もちろん国が市町村に、「お前のところに自転車の専用道路を作れ」
とは言えないと思う。法律に基づいて行政指導はできても、強制できない。

自転車だけの専用道路を作るとなると、沿道の利害関係も有り、
市町村には用地の買収ができないだろう。
そこで、六条には河川の堤防の中とか国有林野と書いた

——蓑輪 健二郎(建設省・道路局長)

国民の健康の為に国策でサイクリングロードを作ろうというのだから、都道府県道や国道で作っても何ら不思議は無いと思うんですが……。

それに、車を除外しただけで「一般交通の用に供しない」? 随分と車中心主義に凝り固まった見方ですね。

その次は非常に重要な発言です。現実的にサイクリングロードを整備できるのは河川や林野だけ。

これは2013年現在の日本を、ほぼ正確に予測していて、関東平野では江戸川、荒川、多摩川などが数少ない貴重なサイクリングコースになっています。

ところが、サイクリングロードの設置や、設置に協力する義務を課せられているはずの市町村・河川管理者は近年、相次いで自転車のスポーツ走行を禁止する施策を打ち出しています。

直接の理由は自転車と歩行者の事故が多発した事ですが、こうした施策は法案の趣旨を無視するものです。

金のない市町村は今すぐやる事が他にたくさん有るのに、
/* サイクリングロードの設置を */ 義務付けられて、
補助金も何も来ないのでは困る。
/* 法案は */ そういう点に触れていない。

——松永 忠二(政治家・参議院議員)

つくづく目が利く人だ。

実は今、道路構造令を大きく改正しようと検討している。
今までの構造令では混合交通制を許しており、
7 m とか 9 m という幅員で決めていた。

いま検討している案では、車道は一車線は幾らにするか、路肩が幾ら必要か、
また自転車の通る幅が最低どのくらい必要かなどを考えている。

——蓑輪 健二郎(建設省・道路局長)

自転車の歩道走行を合法化するのと並行して、実はこの時期、日本の道路行政は従来の「幅員主義」から「車線主義」へと一大転換します。これにより、車道には車に合わせた区画線が整然と引かれ、車道から自転車を排除する流れが加速したと私は考えています。

当初は二輪車レーンも有りましたが、交差点での右直事故の多発を受けて次々廃止されました。

(二輪車用の信号機を設置して動線の交差を時間的に解消すれば右直事故は防げたかもしれないのに……。)

自転車道の幅員もこの時に検討されたようです。とすると、自転車1台の占有幅を 1.0 mと決めたのも蓑輪健二郎氏か。

すれ違い・追い越し時の心理的な余裕も考慮すれば最低でも 1.5 m は欲しい所ですが、構造令に盲目的に従うだけの自治体は、そんな事は考えず、狭すぎる自転車道・自転車レーンを次々作ってしまいます。

この時期の建設省は色々と酷いですね。現在まで40年以上続く間違いの元が集中しています。


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シリーズ記事一覧

国会会議録——自転車を歩道に上げるまで (1)
国会会議録——自転車を歩道に上げるまで (2)
国会会議録——自転車を歩道に上げるまで (3)