2013年9月27日金曜日

シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」の感想 (2)

霞ヶ関の弁護士会館で開催されたシンポジウム。
前回の記事で書き忘れた雑多な事を、発言者ごとにまとめました。
今回は木内秀行氏(弁護士)の意見に関して。


2013年9月27日追記

パネリストの発言の引用は記憶を元に書いてしまいましたが、
その後見付けたUSTREAMの録画映像を見ると
全然違っていました。まるで記憶の歪曲の見本です。
パネリストの方々、すみません。
以下、当初の引用部分は取り消し線で消し、
音声書き起こし文を追加しました。


2018年10月3日追記{
公式の書き起こし文が出ていました。
第二東京弁護士会 (2014)「シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」



旅行速度

2013年9月27日訂正
都内の移動では自転車は車や地下鉄と全く互角。
私は10kmの距離なら30分で移動できる。
メモは取らなかったのでうろ覚えですが、
大体こういう発言だったと思います。
(以下、他のパネリストの発言についても同じ)

音声書き起こし文
/* 自転車の*/ 2番目の特徴は
時間辺りの移動距離が自動車と互角であると、都市部に於いては。
私は自転車を通勤に使っておりまして、10キロの道のりを
信号待ち含めて30分程度で通(かよ)っておりますが、
これは地下鉄で移動する時間や、車で移動する時間と比べましても
全く遜色が無い移動時間だと思います。

10km/0.5h (= 20km/h) ですが、
これは都心部の旅行速度としてはべらぼうに速いです。

以前、自転車での旅行速度を個人的に計った事があるのですが、
東京都区部の旅行速度調査
片側一車線で信号が多い道路では15km/h前後、
信号間隔の長い幹線道路でも17km/h程度、
休日や夜間で車が少なく、青信号が続くなど
好条件が揃って、やっと20km/h台に乗るくらいです。

車道の信号機は車の速度に合わせて点灯パターンが調整されているので、
自転車はどうしても車より信号に引っ掛かる回数が増えます。
交差点では、左折車の渋滞に嵌まって前に進めない事も多々有ります。

車の旅行速度と比べると、自転車は2〜5km/h程度低いというのが
正確なところではないでしょうか。

(私自身はあまり脚力は有りませんが、
SPDペダルで効率の良いペダリングを心掛けているので、
平地巡航でも 52x17 くらいまでは回しています。
他の自転車に抜かれる事も滅多に無いので、
それほど遅くはないと思うのですが……。)



免許制度

2013年9月27日訂正
自転車に免許制度は馴染まないが、
希望者に講習を受けてもらい、駐輪場の優先利用などの
ベネフィットを与えるのは良い。
音声書き起こし文
自動車の運転免許のような形で免許を作るのは、私は反対なんです。
やはり自転車の良い所っていうのは、老若男女誰でも平等に
利用できる交通機関というところが良い所でありまして、
自動車の免許のような形で、「免許取んないと乗れない」
というような事は、その効用を殺ぐ事になります。

で、世界中見回しましても、そういった運転免許を
自転車に課してる国はございません。
そういった国際的な趨勢と、それから
「誰でも利用できる交通機関」としての効用、
こういった観点から、自動車のような運転免許制度については反対です。

ただ、そうは言っても自転車の交通ルールであるとか、
そういった事についても啓発活動が必要なわけで、
その一環としての免許制は有っても良いかと思います。

具体的にはですね、例えば、一定の講習を受けていただいて、
講習を受けた証しとして免許を交付し、で、その上で、
例えば東京都など地方公共団体、または国でも良いんですけど、
そういった所での公共の駐輪場、こういったものを、
講習を受けた人に優先的に利用させるというような形で
免許を認められた人に何かしらのベネフィットを与えると。
まあ駐輪場の利用であるとか。
そういう形での免許は有っても良いかなあと私は思ってます。

それだと交通ルールを周知できる範囲が狭すぎますね。
今の日本は大人も子供も自転車の交通ルールをまるで分かっていない。

ルールを分かってない親が子供に手本を見せるので、
交差点の飛び出しや車道の逆走、
夜間無灯火が世代間で引き継がれてしまっています。

(実際、カルガモの親子のように隊列を組んで
車道を逆走して来る親子を見た事が何度か有ります。)

講習を受けさせようにも、交通違反を漏らさず捕まえるだけの
人員が警察には有りませんし、大人は既に自己流の運転を
確立してしまっていますから、指導されても素直に従わない。

(ルールを守らない人は往々にして
「何で俺だけが」とか「自分は悪くない」とか「運が悪かった」と
開き直るので、教育の効果があまり期待できません。)

自転車に乗る全ての人が
早い段階で正しいルールを学習する必要が有るわけです。

私は、成長期の子供全員に
繰り返しルールを教えるのが重要だと思います。
少なくとも義務教育の間は毎年1〜2回ずつ。

(周りが全員ルールを守っていれば
一人だけ違反するのが難しくなるでしょう。
また、繰り返し教える必要が有るのは、
発達段階に応じて理解できる内容も行動範囲も変わるからです。)

そしてできれば、高校、大学、その先も、
定期的に交通規則を再確認させる機会が欲しいですね。
馴れが出てくると、安全確認などが疎かになっていきますから。

現在は、せっかく交通安全の教育プログラムを作っても、
教育委員会が時間と手間を惜しんで
協力してくれないという状況ですが、
蓮花一己教授の放送大学講義での談)
これを国が命令して変えさせていくべきでしょう。

東京都は、従業員が自転車通勤する場合に
駐輪場を確保させるよう、事業者に義務付けましたが、
そんな事より交通ルールの講習への参加を義務付けるべきでしょう。

運転マナーより駐輪問題を心配するというのは、
駐輪問題が深刻だった80年代の意識を引き摺った人間の思考です。

おそらく、違法駐輪に長年悩まされて、
自転車が嫌いで嫌いで仕方なくなった人間が、
そのまま自転車推進策も押し付けられて、
渋々やっているのでしょう。



自転車道と自転車レーン
2013年9月27日訂正
自転車道は金が掛かりすぎて現実的ではない。
それなら自転車レーンをさっさと整備した方が良い。
音声書き起こし文
まあ幅員をたっぷり取るとかですね、
極めて理想的なシチュエーションが有れば、
それはまあ自転車道も良いのではないかと。
例えば幅員を片側車線で5メートル取るとか、
そういう自転車のパラダイス、
桃源郷のような自転車道であれば、それは私も賛成です。

しかし、仰る通りリアリティーが無いです。
そういったリアリティーが無い現状に於いては、
私は自転車道は可及的に設置すべきではないと考えております。

なぜか。

先ほど疋田さんや小泉さんからも有ったように、
自転車レーンの方が敷設が容易で費用が掛からない。
で、費用を掛けずに自転車の走行空間を確保して、
そして安全な自転車走行を促進する。
これがまさに自転車レーンの良い所であって、
「自転車道を設けなきゃなんない、あーお金が掛かる」
だから逆に自転車の走行空間の促進が阻害されるという事で、
自転車道を造る事に汲々として自転車走行空間を確保する事が疎かになる。
こんな事だったら、現実的な自転車レーンの方がずっと良いですよ。
費用が安くて敷設がしやすい。

そうなのかもしれませんが、でも、現実に自転車レーンが
整備された道路で自転車が100%車道を走るようになったかというと、
せいぜい50%ぐらいですよね。言わば「自転車の玄人向き」インフラ。

逆に、自転車レーンを整備していない道路でも
最近は少しずつ自転車が車道を走るようになってきていますよね。

で、どちらの道路でも路上駐車で車道の端が塞がれるのは同じです。

であれば、費用対効果で考えて、自転車レーンは
それほど良いものだろうかと私は疑問に思います。

同じ金を掛けるなら(同じ金額ではありませんが)、
大多数の人が積極的に使いたくなるようなインフラを
整備した方が良いんじゃないかな。

(私は自転車道の整備費用が自転車レーンの何倍なのかは知りませんが、
それとて、現状の問題含みな道路構造令に準拠した自転車道を
作る場合の費用ですよね。もっと安くできるかもしれないし。)

ちなみに、片側5m幅の自転車道なんて、オランダにも無いでしょう。
オランダでそれくらいの規模になると、車道併設型ではなく、
もう自転車専用道路として整備されたものになります。





2013年9月27日追記

上の引用部分の続きです。

柵で自転車道を区切るという、とても人間的とは思えない
——ああ、そういう事言っちゃいけないか——、
自転車抑圧手段としての自転車道としか思えないような、
そういった自転車道が有り、で、そういった事の反省を踏まえて、
この『安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン』では、
できるだけそういった柵は避けると。
ただ、車道と分離工作物を以て自転車道を区分けする
という考え方が採られています。

で、その分離工作物が何かって言うと、原則として
車道から高さ15センチメートル以上の縁石を設置するという事で、
柵ではなくて15センチメートル以上の縁石で区切るという事になってます。
しかしながら、いくら縁石にして柵にしなかったところで、
自転車道の前方に有る危険を避けようとして縁石に躓いて怪我をするとか、
そういった危険性が縁石にも多分に有ります。

縁石にぶつかったり、ペダルをヒットさせたりするリスクだったら、
狭い自転車レーンで車道の端ギリギリに寄らざるを得ない場合も同じです。

ただ、自転車道の場合は、縁石に躓いて車道側に転倒するリスクが
考えられるわけですが、そういうケースを想定しての緩衝帯ですよ。

オランダ・アームスフォートの道路(Google Street Viewより)

これなら万が一縁石にタイヤを取られて転倒しても、
車道の車に轢かれるという最悪の事態は避けられます。

引用を続けます。

で、しかも先ほど疋田さんのパワーポイントで
自転車道の幅員の例 /* 東京・亀戸 */ が有って凄く狭かったんですけど、
このガイドラインに於いても同様で、
原則として2メートル以上としてくださいと。
しかしながら特別な事情が有ってやむを得なければ
1.5メートルまで縮小できると。
まあ実際のところ1.5メートルまで縮小されてしまう可能性が
大きいと思います。日本の道路事情からすれば。

で、そういった1.5メートルまで縮小されてしまった
自転車道になってしまうと、先ほどのスライドのように、
歩道であるとか、それから車道に比べて自転車の走行空間が
極めて狭隘——狭くなって圧迫された空間になってしまう。
こういった事象が生ずる事から考えても、
やはり自転車道には否定的な評価を下さざるを得ないと思います。

私もそう思います。

実際、亀戸だけでなく岡山の国体筋でも、広大な歩道が横に有るのに、
道路構造令を鵜呑みにして2.0m幅の自転車道を造ってしまい、
大半の自転車が歩道上に流れてしまったという馬鹿な例が有ります。

ただ、「ガイドラインにこう書いてあるから
自転車道は駄目だ」というのは早計な気がします。
問題が有るなら改訂させれば良いんです。

自転車道の幅員は、
歩道の広さや歩行者・自転車それぞれの通行量を
総合的に考えて算出するという形にすれば良いはずです。

(構造令やガイドラインのような見当違いっぷりからすると、
国交省の人間は自分では自転車に乗ってませんね。
まずは彼らに自転車通勤をさせる辺りがスタート地点かと。)

引用を続けます。

最後にですね、外国の諸事例では例えばアムステルダム、
オランダなどの自転車先進国に於いては、
そういった自転車道ではなく、自転車レーンが普及していると。
で、そういった自転車道を造って車道から区分けするのは
寧ろ自転車後進国に見られる例が多いという事もございます。

こういった事から、私は自転車道ではなく、
自転車レーンを以て自転車の走行空間とすべきと考えております。

オランダでも自転車道は普及していますよ。

オランダ・アームスフォートの道路(Google Street Viewより)

オランダ・アームスフォートの道路(Google Street Viewより)

もちろん、自転車レーンも有りますし、車道混在も有りますが、
「自転車道は遅れている」と言うのは恣意的な印象操作に思えます。

寧ろ、「自転車レーンが理想型なんだ」と言って深く考えもせずに
レーンを引いてしまったアメリカの各都市では、
自転車を駐車車両のドアゾーンに誘導する
危険な構造が問題になっています。

もちろん行政側はそうした自転車レーンを
「どうだ凄いだろ」と自慢していますが、
地元のサイクリスト協会からは批判が噴出しています。

日本では車道を走る自転車はまだ少なく、
こうした形の自転車レーンも稀ですから、
door zone というハザードが知られていませんが、
このままではアメリカと同じ轍を踏む事になります。

(日本人は長年の歩道走行で
こうしたハザードに目が利かなくなっています。
だから、どの国の事例が良いのか、悪いのか、
まともな判断ができなくなっていると考えられます。

海外の自転車掲示板を覗くと、アメリカ人も
自国のプアなインフラを嘆いていて、
オランダの例を羨ましがっています。)

ここはやはり、長年の失敗と経験の積み重ねが有る
オランダの事例を丁寧に咀嚼していくのが
日本にとって一番の近道でしょう。

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シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」の感想 (1)
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