2013年9月25日水曜日

シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」の感想 (1)

第二東京弁護士会の
環境保全委員会が主催したシンポジウム、

「自転車の公共政策を斬る」
~国・東京都の自転車政策はどうあるべきか~

を聞きに行ってきました。

会場の弁護士会館


当日は雨だったので電車で行ったのですが、
ロードバイクを買ってからは電車に全く乗らなくなっていたので、
改札機で引っ掛かってしまいました。

弁護士会館3階の会場に入ると、
入口横に誰かの折り畳み小径車が「おすわり」していました。
駐輪場が期待できないこういう場所でも機動力が有って良いですね。
私もちょっと欲しくなってきました。



シンポジウムには谷垣禎一氏を始め、
疋田智氏、 小泉昭男氏、
木内秀行氏、石黒 徹氏が登壇していました。

議論の内容は概ね、疋田氏がこれまでに著作やメールマガジンで
発表してきた事の再確認のようなものだったので、
私にとっては特に新情報は無かったのですが、
いくつか気になる点が有ったのでメモしておきます。



「自転車道は駄目」

シンポジウムでは、
自転車レーンについては
  • 安価で設置できる
  • 省スペース
といった利点を強調する一方、
自転車道については
  • 幅員が狭く、柵も有って窮屈
  • 相互通行が危険
  • 費用が掛かる
  • 設置できる空間が無い
  • 後進国が作りがち 
などと、殊更に悪い印象を抱かせる説明をしていました。

しかし、このブログで指摘してきたとおり、
自転車レーンにも次のような欠点が有り、
  • 路上駐車で塞がれる
  • 駐車車両のドアが突然開いて自転車が衝突するリスクが有る
  • レーンが狭すぎて車との側方間隔が確保されない
  • 整備後も半分近くの自転車は歩道を走り続ける
  • バス停部分の構造に難が有る
逆に自転車道には以下のような利点が有ります。
  • 路上駐車や渋滞に影響されない 
  • 駐車車両のドアに衝突するリスクが無い
  • 車道と違い、路面の補修が半永久的に不要
  • 子供や老人でも安心して通行できる
  • 安全なバス停を作れる

疋田氏と彼に影響されたパネリストたちは
自転車レーンを妄信的に良いものだと認識しているようですが、
私は自転車道の方が良い場合も有るだろうと思います。

日本で自転車道が悪い印象を持たれるのは、
自転車道という方式そのもののせいではなく、
国交省が定めた道路構造令の欠陥のせいだと思います。

実際、オランダには自転車レーンと自転車道の両方が有り、
場合によって使い分けられています。

(私が現地に行って直接見たのはアムステルダム、
アームスフォート、フローニゲンの3都市です。)

今は Youtube や Google Street View も有るんだから、
疋田氏の視線を通した限定的な情報だけで満足せず、
自分でも海外の様子を見て総合的に判断すべきでしょう。



「子供乗せ自転車の歩道走行は仕方ない」

自転車レーン推進派の疋田氏も、
車道の自転車レーンが怖いという人、老人や子供や
子供を乗せた自転車は歩道走行を認めても良いのではないか
との意見を述べていましたが、私はこれを聞いて、
1969年7月8日の国会会議録を思い出しました。

参議院本会議で、自転車道の整備と
既に決まっている道路五カ年計画の整合性を問われた
衆議院議員の遠藤三郎はこう言っています。

もちろんいまの五カ年計画の金をそのまま自転車道に使うわけにはまいりません。そこで、現在の五カ年計画のうちの交通安全対策費というものがあります。これは自転車道と趣旨は同じですから、若干の予算の流用はそっちに使うことはできると思うのです。なお将来の問題として、だんだん五カ年計画の中にひとつ入れていくように努力していきたい。さしあたりはごく軽微なスタートをするより方法がない、こういうことでございます。

……

結局結論としては、自転車道路をあまり強くやっては自動車のほうの交通を阻害する結果になってくる。したがって、これから自転車道路をつくるのだということを政府も考え、公共団体も考えて、そうして両面をよく見て、そうしてそこで相互に矛盾がないようにしてやっていこう。スタートでありますから、だんだん自転車道路についての認識が深まってき、そうして予算もだんだんついてくれば、自転車道路としてのかっこうがだんだんついていく。こういう意味で、国と地方公共団体が自転車道路にも関心を持っておるのだ、いままでは全然関心を持たなかったが、自転車道路に関心を持っておるということをはっきり中外に明らかにして漸次これを整備していく、こういう考え方でいきたい。

少しずつやっていけばそのうち変わるだろうという認識です。
その考えが間違っていた事は歴史が証明していますね。
自転車の歩道走行が固定化して40年以上が経過しました。

疋田氏や、あるいは国交省のガイドラインのように、
歩道通行の例外を認めながらだと、「自転車レーンが必要だ」
という強い意識が国民の間で育たず、インフラ整備は先送りになるでしょう。

思うに、日本は「だんだん変わる」という事が苦手な国なのではないでしょうか。
変える時は一気に引っくり返さないと、いつまでもずるずる抵抗して、
結局元に戻ってしまう。

そういう気質が有るとすれば、中途半端な経過措置は危険です。
予算を集中投入して一気に自転車レーン・自転車道を整備し、
歩道走行は早々に全面禁止してしまうべきでしょう。

ごく幼い子供と、認知力・運動能力が著しく低下した老人は
除外するとしても、大人が運転する子供乗せ自転車まで
歩道走行を認める必要な有りません。



これとは逆の話になりますが、疋田氏の心配を余所に、最近は
子供乗せ自転車や老人の自転車も車道を走っているのを見掛けます。

幹線通りではまだ稀ですが、片側一車線で
車の実勢速度が30〜40km/hくらいの道路では、
自転車レーンが無くても、
意外と平気で車道の端を走っていたりします。

(逆走や信号無視、斜め横断や飛び出しも多いですが。)

ママチャリだから車道を走れない、歩道の方が向いている
と思い込みがちですが、車の脅威がそれほどでもないなら、
車道の方が快適なのはどんな自転車だって同じです。

「歩道走行もやむを得ない」と考えるのは、
ちょっと心配し過ぎなんじゃないかな。

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