車道を走る自転車が大幅に増えたとの調査結果が出ました。
しかし私の見た限りでは
未だに9割以上の自転車が歩道上を走っています。
調査の問題点、ナビライン自体の問題点を考えてみました。
1. サンプルが偏っている
日経新聞、2013年8月24日の記事から。
警視庁が千石一丁目交差点の上り方向の午前7~9時の利用状況を
ナビライン設置前の今年2月と設置後の7月で比較したところ、
歩道上を通行する自転車の割合が39%から16%に減少。
逆に車道を通行する割合が51%から80%に増加した。
パーセントの合計が100になりませんが、
とりあえずそれは置いといて話を進めます。
「上り方向」とあるので、白山通りで都心方面に向かう自転車ですね。
また、調査時間は「午前7~9時」ですから、
サンプルの大部分は通勤自転車だと考えられます。
私がナビライン整備後の千石一丁目交差点を見たのは
昼下がりから夕方頃で、この時間帯では
ナビラインに沿って通行する自転車は全体の1割もいない
という印象を受けました。
つまり警視庁の調査は、一番美味しい数字が出る時間帯を
ピンポイントで狙ったものと考えられます。
白山通りと並行する横断歩道(2013年3月撮影)
交差する不忍通りも同じく
横断歩道を通行する自転車が多いという印象です。
不忍通りと並行する横断歩道(2013年3月撮影)
時間帯からして、幼稚園や塾の送り迎え、
買い物で自転車に乗っている人たちでしょう。
交差点の手前からずーっと歩道上を通行してきて、
そのまま横断歩道を横断し、再び歩道に上がるという動線です。
これは車道の現実を見れば納得できます。
「自転車専用」と書かれても路駐が発生
その後、青色のペイントが完成しても路駐が発生
白山通りの交差点付近には車道の端に自転車レーンが設置されていますが、
歩道に比べてかなり狭い上に、路駐が通せんぼをしているので、
わざわざ車道に降りるのは不合理です。
千石周辺でちょこっと移動するだけの人にとっては、
自転車レーンも自転車ナビラインも無意味でしょう。
2. 因果関係を証明できていない
私は朝の通行状況を見ていないので何とも言えませんが、
仮に警視庁の統計が正確だったとしましょう。
自転車ツーキニストたちは車道を通行するようになった。
交差点でも、車道の端の延長線上に沿って
直線的に通行するようになった。
問題は、ツーキニストの行動の変化が
本当にナビラインの設置と因果関係が有ったのかどうかです。
冒頭で引用した日経新聞の記事では、
ナビライン設置前の今年2月と設置後の7月で比較した
と書かれていました。
間に4月が挟まっています。新年度の始まりですね。
であれば、新たに自転車通勤を始めようとして
ちょっと良い自転車を買い求めた人たちは、
自転車店の店員さんに勧められたのかもしれません。
車道を通行する方が実は安全ですよ。
交差点は直線的に通過する方が良いですよ。
そんな助言を受けて実際に車道を走ってみたら
思いのほか快適だった、という事かもしれません。
ナビライン自体の効果を検証するなら、千石一丁目だけでなく、
ナビライン未設置の他の交差点も同時に調査すべきでした。
交差点を直線的に通行する自転車の台数割合を比較して、
- 千石一丁目交差点だけが有意に上昇したのか、
- それとも、同時期に都内全域で上昇したのか
警察と国交省の社会実験ってなんでこんなにお粗末なの?
せっかく金掛けて整備するならもっと詳細にデータ取れば良いのに。
3. 数字が合わない理由
冒頭で保留にしておいた、パーセントの合計が100にならない件。
国交省と警視庁の記者発表資料に意外な答えが書かれていました。
なるほど、そういう事だったのか。
整備前(N=209) | 整備後(N=417) | |
歩道上 | 39% | 16% |
ナビライン上 | 51% | 80% |
第2通行帯 | 8% | 3% |
第3通行帯 | 1% | 1% |
この第2通行帯は、車にとっての実質的な第1レーンです。
自転車も車と同じ動線上に乗って一緒に流れるという、
至極合理的で安全な通行方法ですが、それを知る人は少ない——
——と思っていたら、標本数209台で8%ですから、
17台もいたのか。これは意外でした。
で、第3通行帯(笑)
車道走行にかなり熟練した人でしょう。
しかも通行台数はナビライン整備後に微増している(笑)
「第3通行帯」というと、なんでそんな車道の真ん中に来るんだ
と思われるかもしれませんが、実はこれも一面では合理性が有ります。
千石一丁目交差点の第2通行帯は左折・直進兼用ですが、
車の通行実態から言えば左折専用レーンです。
第2通行帯から交差点を直進したい自転車は
信号待ちの間に先頭ポジションを取れないと
左折車の列に進路を阻まれてしまう。
左折車の列に嵌まってモタモタしていると、
信号が変わって対向右折車が来てしまう。
だから、実質上の直進レーンである第3通行帯に
交差点の手前で移っておいて、
左折待ちの車列を横目にすいすい通過する。
道交法的にはかなり微妙な行動ですが、
交通状況によっては意外と安全な通行方法です。
(おすすめはできませんが。)
4. 数字のトリック?
記者発表資料を見ていてもう一つ気付きました。
自転車の通行量が2倍になってるじゃないですか!
これは割合だけで見ていては実態を見誤ります。
グラフを作り直しましょう。
あまり変わっていない事が分かります。
人という動物には、変化を嫌うという一面が有ります。
それまでの習慣を変えるには、想像以上に大きなエネルギーが必要です。
そう考えると、
整備前にナビライン以外の部分を通っていた自転車は、とか、
整備後もそのままの通行位置に留まったのではないか
ナビライン部分の増加は、という疑念が浮上します。
4月から新しく自転車通勤を始めた人たちが
流入した結果に過ぎないのではないか
(調査日は2月19日と7月8日で、曜日も天候も全然違いますから、
実際は自転車通勤者は増加していないのかもしれませんが。)
ちなみに記者発表資料では、
利用者への聞き取りアンケートの結果も掲載されていますが、
「整備前と整備後で通行位置を変えましたか」
といった設問は有りませんでした。
また、ナビラインについて、
「矢羽根マークの設置により、横断のしやすさは変化しましたか。」
という設問は用意されていましたが、回答の選択肢は
「横断しやすい」、「どちらともいえない」、「横断しづらい」
であり、設問と回答が論理的に噛み合っておりません。
これでは、ナビライン設置後に初めて通る人でも回答できてしまいます。
正しくは、
「横断しやすくなった」、「変わらない」、「横断しにくくなった」
です。
2013年10月28日 追記
5. 取り零している事象
自転車ナビラインは基本的に、赤信号の間に
交差点に到着していた自転車しか安全に通行できません。
青信号に変わって左折車が左折を開始してしまっている時点で
遅れて交差点にやってきた自転車は、ナビラインを塞がれてしまいます。
そのため、
2014年11月2日 写真の差し替え
{
}
というニアミス事例が発生します。
似たような問題は他にも何種類か出て来ると思います。