2015年6月14日日曜日

【名古屋】自転車インフラの調査報告書に滲み出る価値観

サイクルプラス「あしたのプラットホーム」(2015年6月14日)
名古屋国道事務所:国道19号伏見通り・桜通りの「自転車道」と「自転車レーン」
で引用されている2つの報告書を読んでみました。

舟渡悦夫・嶋田嘉昭(2009)
国道19号線(伏見通)における自転車走行空間の利用実態

名古屋国道事務所(2012)
桜通の自転車利用者増加! ~桜通自転車道 開通1年後の調査結果~

些細な表現の選択に書き手の姿勢の違いが現われるものなんだなあと。



舟渡・嶋田(2009)pdf p. 1
自転車の自転車走行S遵守率(自転車走行Sを自転車が通行した割合)
「遵守率」という言葉はインフラ供給側の都合を押し付ける表現です。
行政が考えた正しい使い方に従う利用者、背く利用者
というように、供給者側の正当性を前提として含意しているので。この表現は、設計が原因で生じた問題を利用者に責任転嫁する姿勢と非常に親和性が高いので、こういう書き方をしている報告書や論文に私は良い印象を持てません。一方、

名古屋国道事務所(2012)
自転車道の利用率(自転車が自転車道を利用する率)
こちらは同じ事を「利用率」と表現しています。中立的、客観的で良いですね。上から目線で利用者の「間違い」を正そうとするのではなく、自分が提供したインフラが利用者から選ばれるに足る魅力を備えているかどうか、謙虚に受け止めようとしているように感じられます。


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舟渡・嶋田(2009)pdf p. 3
A地点の歩行者交通量が絶対的に少ないこと
自転車道利用率が低迷(=自転車が歩行者空間を通行)する理由を推測している文ですが、この理屈では、歩行者が少ない所なら自転車はビルの壁面でもガードレールのパイプの上でも走る事になってしまいます(笑)

本当の理由は、自転車にとって自転車道よりも歩道の方が何らかの点(幅員や線形や自動車との距離など)で魅力的で、自転車道が見劣りするから——そう考えた方が自然です。

歩行者で混雑している時は仕方無く自転車道を通るけど、そうでなければわざわざ通る価値など無いという、利用者からの無言の評価という事です。


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舟渡・嶋田(2009)pdf p. 3
A地点の北行きは信号交差点から自転車走行Sに入る際,多少の進路変更が必要であることが原因と考えられる.
上の引用箇所の続きで、文の後半に来てやって線形の悪さを認めていますが、それでも「多少の進路変更」という控えめな表現に留まっています。しかし現実の伏見通は、



多少どころではなく、かなり急なカーブを描いています。自転車横断帯との接続部分に至ってはバキッと急角度に折れ曲がっていて、しかもそれを柵やボラードで囲っています。通行妨害と言っても良いくらい。ここまで走りにくくしておいて通行空間の「遵守率」も何も無いです。

一方、名古屋国道事務所(2012)は、自転車道の具体的な構造には言及していませんが、その報告書が扱っている桜通は、



線形が大幅に改善されています。僅かに曲がってはいますが、これくらいなら「多少の進路変更」と言われても違和感は無いですね。


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本題は以上で終わりなんですが、ちょっと追記。

2012年までの名古屋の取り組みは世界的にも高く評価されていたもので、日本国内にとってはモデルケースとなり得る重要な事例でした。

Mikael Colville-Andersen(2013年4月29日)
Copenhagenize Index 2013 - Bicycle-Friendly Cities
名古屋がミュンヒェン、モントリオールと並んで世界11位にランクイン。

Copenhagenize Design Co.(2013年4月29日)
The 20 Most Bike-Friendly Cities In The World
評価の理由は
They have built fully-protected lanes on some of their busiest streets, modelled on the Copenhagen cycle tracks - the first city in Japan to make this bold move.
名古屋はコペンハーゲンの自転車道を範に取った完全分離型のレーンを、交通が特に激しい幾つかの路線に整備してきた。これほど思い切った手を打ったのは名古屋が日本で初めてである。

Nowhere near a network, this is nonetheless a sea change in bicycle urbanism in Japan. Every country needs a leadership city. Nagoya is well-poised to fill that role.
ネットワークと呼ぶには程遠いものの、これは日本に於ける都市の自転車文化の大転換だ。どの国にもリーダーとなる一つの都市が要る。名古屋はその役割を果たせるだけの準備ができている。
しかしその後の延伸区間は、あしたのプラットホーム(2015)でも触れられている通り、車道の端をペイントするだけの構造に劣化し、最新の世界ランキングからもNagoyaの名前は消えてしまいました。

The Copenhagenize Index 2015 - Bicycle-Friendly Cities
(このサイトでは過去のランキングが保存されていないので、2015年の結果も2年後くらいには見られなくなると思います。)



過去の関連記事
浅草通りの自転車歩行者道 (4)

浅草通りも伏見通と同じ欠陥構造を抱えています。