2013年10月10日木曜日

アームスフォートの自転車環境 (4) 自転車道

オランダのユトレヒト州で2番目に大きな都市、
アームスフォート(Amersfoort)の自転車走行環境を
Google Street Viewで見学してみました。


※Street View のキャプチャ画像には
緯度・経度を表わす数字を付記しました。
この数字でググると Google Maps 上で撮影地点が特定できます。


自転車道 (fietspad)

オランダの自転車道の構造で最も重要なポイントは、
車道との間に緩衝帯を設けている事でしょう。

自転車道と車道の間に芝生の緩衝帯
52.152634, 5.366443

これは幾つもの面で非常に有効に作用しています。

第1の利点は、車と自転車の間に充分な安全マージンが確保できる事。

いくら線を引いたり縁石を置いたりしても、
車が横スレスレを通るのでは安心して使える自転車道とは言えません。
実際、日本の岡山の国体筋では、双方向型の自転車道の車道側に当たる
「下り方向の通行は、自動車がすぐ横を通るので圧迫感がある」
というアンケート結果が出ています(*)。
* 「岡山市内国道53号における自転車道利用促進のための施策と効果」
寺崎健雄、田中淳 (2010)

オランダのような緩衝帯が有れば、小さな子供や老人でも
安心して自転車道を使えるわけです。

日本では狭くて危険な自転車レーンを造っておいて、
「レーンが怖い人は歩道でも良いですよ」とやっていますが、
そんな事では、そもそも何の為のインフラ整備か分かりません。
日本の施策は本質を見失っています。



緩衝帯の第2の利点は、自転車道を横切る車のドライバーが
自転車を視認しやすくなる事です。

車が自転車道を横切る部分
52.15261, 5.368085

自転車道の手前に緩衝帯が有る事で、
右折進入する車は自転車道に鋭角に進入しなくて済みます。
(オランダは右側通行です。)

ドライバーが自転車を見落とすリスクを
道路構造の工夫で小さくしているんですね。

ところで、日本の道路を見慣れた人には、
なぜ緩衝帯にツツジのような低木を植えないのかと
疑問が生じるかもしれません。

車高の低いリカンベント
52.152623, 5.366824

しかし、リカンベントやハンドバイクのような車高の低い車種は、
低木であってもドライバーから隠されてしまいます。
恐らくオランダはそこまで考えた上で緩衝帯には芝を植えているのでしょう。

単純に道路に緑を増やせば良いという日本の考え方が
如何に浅はかなものかが分かります。

東京・西荻北の商店街道路
街路樹の幹が大きな死角を作っている。
歩行者は車道に降りて一、二歩進まなければ安全確認できない。

東京・西荻北の商店街道路
さまざまな高さの植物が面的な死角を形成。

東京・西荻北の商店街道路
電柱や街路樹で歩道が隠されている。

この商店街道路では横断歩道の無い部分でも歩行者が横断しますが、
歩行者は目視による安全確認をせず、音だけで車の接近を判断して
横断を開始しがちなので、自転車との出会い頭事故のリスクは非常に高いです。

オランダに戻ります。

丁字路付近の自転車道の蛇行
52.152345, 5.360414

一部の交差点では、さらに進んだリスク対策が施されています。
自転車道の蛇行構造です。

交差点での緩衝帯の幅を充分に確保する為に
交差点の手前で自転車道を蛇行させています。

もちろん、蛇行は緩やかなカーブを描いており、
自転車の走りやすさを阻害するものではありません。

対して日本では自転車の通行空間をバキバキと直線的に折り曲げていますが、
対面通行では逆に正面衝突のリスクを生じさせかねない危険な構造です。

東京・山手通り

自転車の走りやすさを無視した屈曲です。
屈曲を設けた理由もバス停や植樹帯の配置の都合に過ぎず、
自転車の安全を考慮したものではありません。

東京・山手通り

自転車通行帯が折れ線グラフのように折れ曲がっています。


オランダに戻って、緩衝帯の第3の利点。

左側の緩衝帯に路上駐車の為の切り欠きが有る。
52.15205, 5.358672

安全に路上駐車できる場所の緩衝帯を切り欠く事で、
それ以外の危険な場所に駐車されるのを防いでいます。
このように、緩衝帯は路上駐車をコントロールする機能も持っています。

52.152471, 5.362349

さらに良く見ると、駐車帯が設けられている所でも
緩衝帯の幅はゼロには成っていない事が分かります。
これにより、停車中の車が急にドアを開けても、
横の自転車道を走行する自転車はドアに衝突せずに済みます。

(写真の道路の右側は歩道しか無いので関係有りませんが。)

なお、上の写真の場所に於ける道路の横断面は、左端から
  • 歩道 2.8 m
  • 自転車道 3.0 m
  • 緩衝帯 2.1 m
  • 車道 6.1 m
  • 駐車帯 2.0 m
  • 緩衝帯 1.6 m
  • 歩道 2.1 m
の合計 19.7 m で構成されています。
(航空写真による簡易測定)

ただし、オランダでは道路ごと、地区ごとの
交通実態や交通事情に合わせて空間構成を細かく調整しているようなので、
例えば自転車道がこの道路のこの地点で 3.0 m 幅だからといっても、
それが標準の幅員とは限りません。

関連する過去記事
オランダの自転車レーンの幅員


双方向通行を表わす標識
52.152582, 5.368126

この道路では自転車道は片側にしか設けられていません。
両側に一方通行の自転車道を設置するより、自転車の通行実態に
合っているという判断が有ったのかもしれません。

(「自転車が道路を横断する頻度が低い地区である」など。)

自転車道を走行するスクーター
52.152648, 5.371367

オランダの道路法(RVV 1990)ではモペッドは
自転車道を走行する事になっているようです。
(全ての自転車道ではないかもしれません。) 

モペッドと自転車の兼用である事を示す標識
(2010年に現地で撮影)

自転車・モペッド道では、排気量 50 cc 未満(以下?)の
簡易モペッド (snorfiets) に対しては 25km/h、
普通のモペッド (bromfiets) に対しては
30km/h(市街地)または 40km/h(郊外)の速度制限が有ります。
自転車に対する速度制限は有りません。

(根拠法:RVV 1990 第20, 21条)


駅前の自転車道
52.152653, 5.372022

オランダでは後輪上に荷台を設置した自転車が一般的で、
クロスバイクやロードバイクは(少なくとも街中では)極めて稀です。

街中でスポーツ自転車を見掛ける割合は
むしろ東京の方が遥かに高いと感じました。


2014年1月18日追記
オランダ人は通勤や買い物には鈍重なシティーバイクを使って、
ロードバイクなどは休日に純然たるスポーツとして乗るようです。
スポーツ用の車種を日々の通勤にも使うのは、
(比較的)治安の良い東京ならではの光景かもしれませんね。

住宅街の自転車道
52.144493, 5.367133

この道路では道路の両側に一方通行の自転車道が有ります。
自転車道(赤煉瓦)と歩道(灰色アスファルト)は縁石で区切られ、
歩道が一段高くなっていますが、日本の縁石ほどの高さはありません。

車道と自転車道の間には緩衝帯が有りますが、
自転車道と歩道の間にはそうした分離スペースは有りません。

中心市街に近い道路の自転車道
52.151515, 5.381468

ここも道路の両側に一方通行の自転車道が設けられているようです。
写真の自転車は逆走でしょうか。日本ほどではありませんが、
オランダでも逆走自転車はちらほら見掛けました。


自転車道にもゼブラが引かれている。
52.145268, 5.368182

写真はロータリーの流入部分です。
自転車道(赤煉瓦)の上にも横断歩道のゼブラが引かれています。



ところで、最初に載せた写真では自転車2台が並走していましたが、

並走する自転車
52.152634, 5.366443

並走する自転車
52.15261, 5.368085

これは日本では違法ですが、オランダでは合法です。

交通規則・道路標識法(RVV 1990)3条2項
Fietsers mogen met zijn tweeën naast elkaar rijden.
Dit geldt niet voor snorfietsers.
(サイクリストは2台並んで走ってもよい。
これはモペッドには適用されない。)


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シリーズ記事の一覧

アームスフォートの自転車環境 (1) 市の概観
アームスフォートの自転車環境 (2) ネットワーク
アームスフォートの自転車環境 (3) 歩道
アームスフォートの自転車環境 (4) 自転車道
アームスフォートの自転車環境 (5) 自転車レーン
アームスフォートの自転車環境 (6) 車道
アームスフォートの自転車環境 (7) 横断歩道
アームスフォートの自転車環境 (8) バス停
アームスフォートの自転車環境 (9) 交差点
アームスフォートの自転車環境 (10) ロータリー
アームスフォートの自転車環境 (11) 踏切
アームスフォートの自転車環境 (12) 駅
アームスフォートの自転車環境 (13) 商店街通り
アームスフォートの自転車環境 (14) 広場