脱原発依存を訴える政党
就職活動の脱ネット依存
といった表現を報道で目にしますが、
この「脱××依存」の部分で
何か引っ掛かる感じがしませんか?
私の感覚では、こうした表現は文法違反に思えます。
冒頭に挙げた二例の構文を見てみます。
政治家や記者の意図を酌むと、
{ 脱 + (原発 + 依存) }
{ 脱 + (ネット + 依存) }
「脱」が後ろの二語から成る部分を修飾する構造です。
ここで、{ }内が「目的語+動詞」の順で、
脱 + { }が「動詞+目的語」の順という、
SOV型とSVO型の混在状況が有ります。
これ自体は日本語ではそう珍しい事では有りませんが、
増税提案
{ (増 + 税) + (提 + 案) }
{ 目的語(動詞 + 目的語) + 動詞(動詞 + 目的語) }
ここから厄介な問題が生じます。
---
複合語を構成する形態素が三以上になると、
形態素同士の結び付き方のパターンは
何種類にも増えます。
例えば、
緊急着陸許可申請
は音声上では
緊急 + 着陸 + 許可 + 申請
と一列に並んでいるだけですが、その構造は
- { (緊急 + 着陸) + 許可 } + 申請
- { 緊急 + (着陸 + 許可) + 申請 }
- 緊急 + { 着陸 + (許可 + 申請) }
- { (緊急 + 着陸) + (許可 + 申請) }
などが考えられます。
この場合は1番の解釈が最も自然だろうと思います。
複合語の要素を前から順に結合していくパターンです。
そうではないのが冒頭の二例で、
{ 脱 + (原発 + 依存) }
{ 脱 + (ネット + 依存) }
結合の順番が前後逆になっています。
ではこの様な場合、聞き手・読み手は何をヒントに
結合順序の入れ替わりを察知するのでしょうか。
---
同じ構文で、もう少し読みやすい複合語を考えてみます。
前アメリカ大統領
{ 前 + (アメリカ + 大統領) }
冒頭二例と同じ構文(しかも同じ句アクセント構造)ですが、これを
{ (前 + アメリカ) + 大統領 }
と誤解する事は有りません。
ここでは「前」と「アメリカ」が意味的に繋がらない事が
ヒントとして機能している様に思えます。
という事は……?
---
再び冒頭の二例を見てみると、
脱 原発 依存
脱 ネット 依存
ああ、これだ。
先頭の「脱」が二番目の語と違和感無く結び付いてしまいます。
最後の「依存」よりも先に。
{ (脱 + 原発) + 依存 }
{ (脱 + ネット) + 依存 }
その結果、複合語全体での意味が
聞き手・読み手の脳内でまともに結実せず、
捉え所の無い不安定感を生じさせています。
ネット上の言説を眺めると、この感覚が
政治家への不信感に転化しているのが見て取れます。
まあ、この語順で無理矢理にでも解釈するなら、
「脱原発というスローガン一つに頼った選挙戦」
「ネットさえ脱すれば良いんだという偽の安心感」
といったところでしょうか。
いずれにせよ、
こんな無神経な造語を得意げに連呼する政治家や新聞屋に
票や信頼を呉れてやる必要は有りませんね。
---
私は
脱原発依存
脱ネット依存
の様な、聞き手・読み手を混乱させる表現は
文法違反だと感じます。ではどう言えば良いのか。
原発依存脱却
ネット依存脱却
こうすれば前の要素から順番に結合させるだけなので、
誤読される危険は大幅に減ります。
{ (原発 + 依存) + 脱却 }
{ (ネット + 依存) + 脱却 }
または、もっと単純に
脱原発
脱ネット
でも良いでしょう。二要素から成る複合語なら
構造の解釈に迷いが生じません。