2013年6月22日土曜日

自転車対策懇談会の感想

昨年行なわれた東京都の自転車対策懇談会の議事録を読んでみました。
例の、
「自転車にナンバープレートを」発言
が出た会議です。



まずは懇談会のメンバーを調べておきましょうか。
参加メンバー34人中、
「自転車施策に造詣の深い学識経験者」(懇談会資料
として4人が名を連ねています。


政策研究大学院大学特別教授 森地 茂
(公財)労働科学研究所 主管研究員  岸田孝弥
立教大学法学部教授 神橋一彦
東京工業大学教授 屋井鉄雄


それぞれ、どういう研究をしている人物なのか、
CiNiiで論文を検索して、引用件数が多い上位10本を拾ってみます。

まずは森地茂氏から。懇談会の座長でもあります。

  • 古地図の幾何補正に関する研究
  • 時間軸を考慮した観光周遊行動に関する研究
  • 情報提供システム評価のための交通行動分析手法に関する研究
  • 社会的相互作用存在下での交通行動とミクロ計量分析
  • 都市高速道路における新たなリアルタイム流入制御手法に関する研究 遺伝的アルゴリズムの適用
  • 個人データと集計データとの統合利用によるモデル構築方法
  • 一般化平均概念を用いた交通情報提供の影響分析手法に関する研究
  • 非日常的交通への非集計行動モデルと選択肢別標本抽出法の適用性
  • 新しい国土計画の意義 (特集 大転換を遂げる国土計画)
  • わが国の国際航空旅客の需要構造に関する研究

あれ、自転車の研究が入ってませんね。タイトルに「自転車」が入っているものは、
被引用0回の論文も含めて探しても、224件中、1本しか有りません。
「自転車問題の解決に向けて : 東京都自転車対策懇談会の提言」
ってこれかよ。

議事録の発言を見ても、強力なリーダーシップを発揮して
議論を纏め上げているという印象は受けませんし、
本人が自転車利用者の視点を持っているとも思えません。

ナンバープレート制度案に関しては、その導入目的の一つとして、

「自転車利用者に車両としての責任を自覚させる」

効果が挙げられていますが、会議参加者の誰一人として、
その客観的な根拠を示せていないのに、
その事を一切指摘せずに会議を進行させています。

希望的観測と事実を混同している発言者には、
科学的証拠に基づいて議論するように注意すべきところ、
学識経験者としての責務を放棄した、雑な仕事です。



次は岸田孝弥氏です。

  • 大都市高速道路網案内標識の人間工学的評価方式
  • 質問紙健康調査法による中小企業の健康管理への応用
  • 自動販売機利用時の人間行動 : 自動券売機利用者のタイムスタディ調査結果をもとにして
  • 自動販売機利用時の人間行動 (第4報) : 新型自動券売機利用者の行動観察調査
  • 自転車事故の誘因に関する研究--高崎市民の未然事故調査の結果から
  • 自転車利用者の意識・マナ---高崎市民を例として
  • 自転車事故と走行状態--高崎市における自転車の走行状態の実態について
  • 自動販売機利用時の人間行動
  • 自動販売機利用時の人間行動(第5報) : 中途視覚障害者の自動券売機の利用行動
  • 自転車事故の誘因に関する研究(総括)--交通心理学的視点からの考察

この人は一応、自転車を研究している人のようですね。

議事録では、前照灯、保険、ヘルメット着用などに関する発言が記録されています。
しかし、自転車に関する道交法の条文や都条例を読んでません。
この点について、他の参加者からツッコミを喰らっています。

(もしかして上の検索結果は、同姓同名の別人の研究業績なのでしょうか。)

そして、最後の3回目の懇談会の締め括りでは、
学者に有るまじき発言をしています。

これまで委員や事務局で多数の人が時間を割いて、
十分議論をしたわけですから、ナンバープレート制度等を
実施するといったことまでしっかりと盛り込まないといけないと思います。

もちろん、実施すれば、問題は出てくると思いますが、
その問題を解決するために色々な知恵が出てきたり、
また具体案が出てくるわけです。

ぜひ、ナンバープレート制度を含め、この提言を
実行しなければだめだということを皆さん方と合意したいと思います。

時間は割いたかもしれませんが、議論には全く客観性が有りませんでした。
これでは、労力を費やした議題なら何でもOKという事になってしまいます。

小学校の学級活動かよ。

そんな見切り発車で実施しても問題しか出てこんわ。



次、神橋一彦氏。

  • 「職務行為基準説」に関する理論的考察 : 行政救済法における違法性・再論
  • 判例批評 場外車券発売施設設置許可の原告適格[最高裁第一小法廷平成21.10.15判決]
  • ドイツ環境法における「事前配慮」と「統合的環境保護」(藤田宙靖教授退官記念号)
  • シンポジウム 第二部会 討論要旨 (変容する公共性)
  • 公法訴訟(第9回)法律上の争訟と「義務」の概念 : 公法学の基礎概念を検討することの意味
  • 判例批評 公務員の出勤簿掲載情報の個人情報該当性(平成15.11.21最高裁第二小法廷判決)
  • 公法訴訟(第17回)行政救済法における違法概念と憲法規範 : 国家賠償法1条の違法概念の特殊性を中心に
  • 取消訴訟における原告適格判断の枠組みについて : 小田急訴訟上告審判決(最高裁平成一七年一二月七日大法廷判決)をめぐって
  • 行政判例研究(564・879)朝鮮総聯系の集会のために認められていた日比谷公園大音楽堂使用承認処分を直前に職権取消ししたことの違法性(国賠)[平成21.3.24東京地方裁判所判決]
  • 論点講座 エンジョイ!行政法(1)行政法ってつまらない?

うーん、自転車は入ってないですね。
本文に「自転車」を含む論文の中身を読むと、
「自転車競技場の場外車券売り場がどうのこうの」というものです。
競輪と地域社会の治安の問題でしょうか。

議事録では、ナンバープレート制度と現行の防犯登録制度の関係や、
ナンバーを導入した時に予想される法律上・実務上の問題点を指摘しています。
ただ、神橋氏自身として、ナンバー制度に賛成なのか反対なのか、
特に明確な姿勢は示していません。問われるままに答えている感じです。



最後、屋井鉄雄氏。(発行媒体違いの重複論文は除外しました。)

  • 都市市民の意識分析によるパブリック・インボルブメントの考察-米国の2都市を例に-
  • 米国における交通計画へのパブリックインボルブメント 
  • 米国の都市圏交通計画におけるパブリック・インボルブメントの多様性 
  • 広域交通計画におけるパブリック・インボルブメントの方法に関する研究 
  • シミュレーション法による構造化プロビットモデルの推定特性 
  • 鉄道ネットワークの需要と余剰の推計法について 
  • 高速道路走行における心理的負担の計測と安全性評価に関する研究 
  • 社会資本整備の合意形成に向けて 
  • 米国の都市圏交通計画の仕組みと実際 
  • 休日のアクティビティに着目した活動時間価値の推定方法に関する研究

行政の交通計画にどうやって人々の意見を取り込むか
という研究が上位に来ています。
東京都が一番耳を貸さなければいけない専門家でしょう。

議事録では学識経験者の4人中、一番発言量が多いようです。

その内容は、ルールの周知や走行インフラの重要性、
路面標示の矛盾や、バックミラー装備の提言、
ナンバープレートの非現実性の指摘などで、
学識経験者の中では唯一まともな議論をしています。

この人が会議を主導すれば良かったのに。