大衆の支持が弱いという事情は有りますが、
それにしても、この戦略はちょっとどうかと思います。
徳島大学の山中英生教授が作成した
「自転車利用環境の整備とまちづくり」という資料が有ります。
2013年2月に開催された「全国コミュニティサイクル担当者会議」で
基調講演として発表されたプレゼンテーションだそうです。
その資料のp.23にこんな事が書かれています。
自転車利用環境の整備とまちづくり(p.23)より
文字化しました↓
道路空間構成の整備戦略
(1) 根本的に重要なこと=質の高い走行空間の整備
(2) 自転車通行帯の選択肢を増やす
→歩道or自歩道(遅い自転車)と自転車レーン
(速い自転車)の併用は現実的な選択肢。
(3) 次ステップで自動車交通の静穏化、監理、
→快適走行レーンの増加
→最終的には中速帯として整備
次世代のモードの走行空間へ
段階的に速い自転車を歩道から隔離する
金利昭 茨城大学
山中教授本人が戦略の意図を解説している動画が有ったので、
該当部分を書き起こしてみました。動画では15分45秒辺りからです。
(引用文中、/* から */ までは補注です。)
とりあえず我々が目指すべき空間として、こういうものを提唱していけば
皆さんが受け入れてくれるんじゃないかっていう事でお話をしました。
まずレーンを作って、そこへ、いま歩道にいる速い自転車を移しましょうと。
で、遅い自転車でどうしても車道を走りたくない人たちって居ますので、
こういう人たちは暫くこの左 /*歩道*/ に居てもらうと。
で、だんだんこの右側 /*自転車レーン*/ が快適な事が分かってきますので
ほっといても多分右に移って行きますよ。或いは、どんどんこれを
快適にしていけば、ママチャリのおばちゃんは当然ですけども、
高校生も当然ですけども、それ以外の人たちもこのレーンに移って行きます。
で、その方が安全になるんですっていうふうな話をして
進めていきましょうという事を戦略として打ち出しました。
究極的には「質の高い走行空間」が必要であるという点では賛成です。
(自転車レーンを「質の高い走行空間」だと言うなら話は別ですが。)
ただ、この戦略の途中段階には重大な欠陥が有ります。
- 自転車レーンは「安全」ではあっても「安心」な空間ではない。
- いや、それどころか「安全」ですらない場合も有る。
- 故に、大衆の意識改革やモーダルシフトを引き起こすには力不足。
- 歩道と自転車レーンの併用を認めると余計な事故リスクを生む。
- 中途半端な自転車インフラを整備すると、結局は作り直しで二度手間になる。
詳しくは次回以降の記事で説明していきますが、
「ほっといても多分右に移って行きますよ」という山中教授の主張は
私には非常に疑わしく思えます。
(つづく)
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