2014年7月22日火曜日

浅草通りの自転車歩行者道 (2)

東京・上野の浅草通り(都道463号)の自転車歩行者道

前回は道路北側の歩道を見ました。
今回はその続きで、南側の歩道を見ていきます。
またまた写真の枚数が多くなってしまったので、
今回は単路区間のみを取り上げます。



なお、この自転車歩行者道については既に
Cycling in the World ~日本と世界の自転車事情~
というブログの2014年6月4日の記事でもレポートされています。
動画も有って分かりやすいので、併せて見る事をお勧めします。


沿道には仏具店が集積しています。

自転車の通行位置が明示された自転車歩行者道が整備済みなのは、
東は元浅草四丁目から、西は上野警察署前辺りまでの約750mの区間です。
たったこれだけの区間でも歩行者・自転車の交通量にはかなりムラが有り、
道路空間の配分比率が通行実態に合っていない箇所が生じていました。


自転車通行空間
(元浅草四丁目交差点から西方向)

路上駐車に塞がれない空間が連続的に確保されています。
対面通行の空間としては狭いですが、この付近は自転車の通行量が少なく、
対向自転車とすれ違う機会はそれほど多くありません。
(朝夕の通勤時間帯になると様相が変わるのかもしれませんが。)


植栽による分離

赤い三角コーンが幾つも置かれています。
植え込みの縁の石に躓いて転倒した自転車がいたのかもしれませんが、
他の場所には三角コーンが無かったので、違う理由からなのかも。

植栽の左横には電線共同溝の蓋らしきものが並んでいます。
これなら自転車通行空間の部分を切り下げる事も可能ですね(*)。

* 今の所、自転車通行空間は歩道と同一平面で続いてますが、
これは歩行者が誤進入してくる一因になっていると考えられます。
自転車の空間を切り下げて歩道との間に段差を設け、
車両の通行空間である事を構造そのものによって明示すべきです。
(同時に、タイル舗装もアスファルト舗装に切り替える。)

岡山ではそれが不可能でしたが、ここではその可能性が残っています。


歩行者の通行空間

案の定、自転車が走っています。
歩行者空間が歩行者の通行量に対して過剰に広く、
自転車通行空間より広々と走れるので当然です。

同様の設計ミスは、亀戸駅前や岡山・国体筋の自転車道、
山手通りや武蔵境通りの自歩道など、各地に見られます。

このような悪質な設計が横行する背景には、
自転車通行空間の構造基準について最低限の値しか示さない
道路構造令の条文(10条3項)が有ると考えられます。

本来なら、自転車の通行量や実勢速度、
自転車ネットワーク内での路線の重要度、
並行する歩道の幅員などに応じた決め方を示すべきです。

現行の道路構造令や、それをそのまま引いただけの
ガイドラインには、そうした統合的設計という視点が欠けています。


通行空間を侵食する障害物

沿道のラーメン店が幟を立てています。
ゴミ箱も放置されています。

車両の通行空間として
沿道住民に認知・尊重されていない事が窺えます。


停車中のトラック

路上駐車を車道中心側から追い越す自信が無いサイクリストに
安全な通行空間を提供しているという点では有意義ですね。


歩道側から合流する自転車

歩行者と自転車の通行空間は構造的に分離されていますが、
行き来できる通路が随所に空いています。

問題は、行き来できる構造であるにも関わらず、
共同溝(?)の地上機器や街灯の支柱で死角が多く、
出会い頭衝突リスクが生じている事です。


沿道の建物の駐車場に出入りする為の通路

日本では車の所有者が自前で車庫を用意するのが当たり前ですが、
浅草通りのような幹線道路では、車が車庫に出入りする際、
自転車・歩行者の動線と交差するという欠点が有ります。

コンフリクト・ポイントを最小化するという視点からは、
自前の車庫は使わせず、車道の端に駐車スペースを設けて
それを賃貸しする方が良いです。(歩道の無い細街路は別)

賃貸料の設定次第では自家用車の所有自体を断念させる効果も期待できるので、
社会のクルマ依存度を確実に引き下げる装置として有望ですね。

或いは、幹線道路に面した土地への出店を抑制し、
幹線道路に囲まれた内側の区域での商業活性化に繋がるかもしれません。
謂わば、街の構造を〈イチジクの実〉型に転換するという事です。

道路ネットワークの血管的な機能分担(大動脈と毛細血管)を実現する上でも、
商店街地区で歩行者を主役にし、車の過度な進入を防ぐ上でも、
イチジク型の構造は理想的です。
(イチジクの花は、実のように見える部分の内部に咲きます。
ここには特定の種類の寄生蜂しか入れず、
他の虫は花にアクセスできません。)


小さな通路

車用以外にも所々で植栽は途切れています。
ただ、石が視覚的にトゲトゲしていて不快感が有ります。

石の囲みの中に植えられているのはツツジでしょうか。
今の所は若木なのでそれほど気になりませんが、
横に成長すれば自転車通行空間を侵食し、
縦に成長すれば歩行者空間との間の死角が大きくなります。

剪定は年一回しかしないでしょうから、
夏から秋にかけての一時期は
自転車通行空間の安全性・快適性はさらに下がるでしょう。


パーキングメーター

車道との間に柵が有るので、突然開いた車のドアに
自転車が衝突するリスクは回避されています。

ただ、メーターを操作する人が
安全に滞留できるスペースが確保されていません。

浅草通りでは、歩道上を通行する自転車は
せいぜい15km/h程度の低速走行なので
(現地のママチャリと同じ速度で走って確かめました)
問題は顕在化しないでしょう。

但し、自転車本来の性能を活かすなら、
設計速度は最低でも30km/hにしたい所です。
その場合、走行空間の中に
無造作にメーターが突っ立っているというのは危険です。

自転車通行空間と路上駐車枠の間に
0.75mとか1.0mとか、或る程度の幅の緩衝帯を設け、
メーターもその緩衝帯の中に収めるべきです。

現状の浅草通りのような構造は、
青梅街道や甲州街道といった自転車通勤の旗艦路線では
絶対に採用してはいけません。


柵の切れ目の縁石

路上パーキング横の縁石は柵の切れ目で
なだらかに傾斜しています。台車での搬入に便利。

ところで、パーキングメーターってお金を払わなくても
ルール違反を検知できないんですよね。
私が写真を撮っている横でもまさにその現場が。

車による移動需要を抑制するという観点からは
見過ごせないシステムの穴です。


路上駐車と自転車

やはり構造的に分離されていると路駐が有っても
通行空間として確実に機能しますね。

将来、自転車の通行空間が増えていけば、
路駐を取り締まる人手は確実に足りなくなるので、
このように路駐需要が存在する道路の区間には
車道の端をペイントするだけの自転車レーンではなく、
構造的に分離する方式を用いるのが鉄則です。

ただ、車道の第一通行帯がだだっ広いので
路駐回避の難易度は低く、普通のママチャリでも

車道を走行する姿がちらほらと見られます。

むべなるかな、歩道は障害物だらけ

通行空間は紆曲が多く、交差点の度に段差も有るので、
やはり快適な通行環境とは呼べない代物です。


交差点の角に無造作に物が置かれています。

資源ゴミの回収箱でした。

構造的に分離された自転車通行空間が消滅

上野警察署を目前にして自転車通行空間が唐突に終わります。
しかも電話ボックスが通路を塞いでいる。
stupid bike lane の写真コレクションに加えたい一枚ですね。


全く通れないわけではないが……

想定される自転車の動線

ただでさえ前方の見通しが悪いのに、
同時に斜め後方も確認しないといけないという悪質な構造です。


同じ場所を反対方向から

こちらからも電話ボックスが死角で先が見通せません。


安全性、快適性、分かりやすさ。
どの指標から考えても真っすぐ進むのが合理的です。

現地で観察していても、
律儀に自転車通行指定部分に入っていく自転車は皆無です。
機能的に死んでる空間ですね。勿体ない。

ところで、産經新聞の2014年7月9日の報道に拠れば、
 視察中も自転車レーンを利用せず、歩道を走る自転車利用者が多く見られるなど、まだ十分に浸透していない状況を目の当たりにした舛添知事は「ルールを守ることを周知徹底して、少しずつ慣れてもらうしかない」と語った。
全く見当違いの認識です。
どうやら舛添都知事の目は本格的に曇ってるようだ。

自転車が自転車レーン(*)を通らないのは、
そうなるようにインフラが仕向けているからです。
周知徹底とか慣れの問題ではありません。
* 記事中では歩道上の自転車通行指定部分も「自転車レーン」と表現している。

このようなインフラの問題点を見抜けず、それどころか
逆に歓迎している人は、都知事以外にも見られます。

浅草通りに関しては、東京都議会議員・世田谷区の
西崎光子議員が自身のブログで肯定的に取り上げています。
http://nishizaki.seikatsusha.me/blog/2013/11/01/4401/
さっそく私も、浅草通りを上野駅前から浅草まで歩いてみました。
自転車でも走ってみてね。

しかし、都内全体を考えてみますと、まだまだこのような自転車道が、歩道と別々に整備されている場所は少なく、自転車走行空間のネットワーク化が進んでいるとは言えません。今後は、区市町村と連携して、積極的に整備を推進するよう要望しました。
こんなもん推進したら駄目でしょ。

「市民の視点」を訴える同議員ですが、
どっちか言うと「素人の視点」だよね。


上野警察署前交差点付近

整備区間の西端は単なる視覚的分離です。
先行事例でも既に明らかな事ですが、
実質的な分離効果は有りません。

ここが構造的分離になっていないのは、車道部分の拡幅により
歩道空間が削られて幅員が不足しているからです。

車道が拡幅されているのは
大型交差点の手前で車線数を増やして渋滞を防ぐ為ですが、
上野駅に近いこのエリアは歩行者も多いので、
空間が必要なのは歩行者も同じです。

(そして歩行者が多いなら尚更、自転車専用として
実質的に機能する通行空間が必要です。)

車の都合をいとも容易く歩行者・自転車に押し付けてくる辺り、
旧来のクルマ中心主義が露骨に現れた設計です。

この問題については次回以降の記事で解決案を提示します。


着色部分が自転車の通行指定部分

すぐ先に横断歩道が有るので、
歩行者の滞留スペースの所で通行空間が途切れています。
自転車の動線を微塵も考えていない阿呆設計ですね。


無意味な視覚的分離


さて、単路区間編はここまで。長かったー。

次回以降は交差点やバス停、地下鉄出入り口、
駐輪などの問題点を見ていきます。


シリーズ記事一覧
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