自転車の特性を無視した自転車通行空間は利用者から忌避される
最初の写真で自転車が避けていた屈曲部分
山手通りの中落合二丁目交差点から西武新宿線・中井駅に至る区間です。
下り坂でスピードが乗る区間ですが、
僅か 2.0 m の距離で 1.2 m も左にシフトしてます。
一体どれだけ低い速度を想定して設計したんでしょうか。
自転車が白線に沿って斜めに走行するとします。
この時、自転車の速度ベクトルの左右方向の成分を
1.0 m/s (= 3.6 km/h) とするなら(*)、
この箇所の設計速度は約 7 km/h といったところでしょう。
遅すぎる。
* この値の根拠については過去の関連記事を参照
国交省の自転車ガイドラインの感想 p.50-54 バス停部分
設計者の頭の中ではこうなる筈だったんでしょうが、
下り坂でスピードが乗っている時に
カクカクと折れ曲がった線をトレースすれば、
急激な横Gが掛かって吹っ飛びます。
かといってブレーキを掛ければ
折角の位置エネルギーが無駄になります。
現実の動線
なので、現実の利用者(水色の線)は屈曲の中を
できるだけ緩やかなカーブで通過しようとします。
(水色の進行方向だと登りになるのでスピードはそれほど出ませんが。)
これこそが本来有るべき通行空間の線形ですね。
道路は人や車両の振る舞いに合わせて作るべきです。
2014年8月2日追記
設計担当者、一度作った道路は作りっぱなしで
現場の利用実態を全然見てないだろ。
一方、画面奥に向かって下る場合はかなりスピードが乗るので、
水色の緩やかな動線をトレースする場合ですら
街灯の柱や植栽のガードパイプに衝突するリスクが出てきます。
対向自転車が接近していれば尚更です。
そこで、画面奥に進む自転車は予め自転車通行空間から大きく逸脱し、
歩行者空間を直線的に進むのが最も合理的な動線になります(ピンク色の線)。
その結果が冒頭の、
この通行実態です。
自転車利用者にとっては、
道路設計者が思い描いた通行空間を守る事に
微塵も合理性が無い事が分かります。
2014年8月2日追記
そもそも、この箇所にこんな急な屈曲を設ける事自体、
全く必然性が有りません。これでは単なる通行妨害の工作です。
赤丸部分が問題の屈曲
ところが、このような自転車の特性にそぐわない屈曲構造を
国交省の自転車ガイドラインは平然と提示しています。
国交省(2012)『安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン』p.41から
横着しないでクロソイド曲線つなぎのカーブ設置法を書いとけよ。
自転車通行空間を機能不全に陥らせる要因は他にも有ります。
屈曲部の少し手前から
自転車通行空間が植栽のガードパイプや街路灯の支柱に挟まれています。
特に屈曲部分は
視覚的に強烈な狭さ。
それに比べて歩行者空間の何と余裕の有る事か。
この辺は歩行者なんか殆どいないのに。
自転車で走ってきた人がこれを見れば、
屈曲部分の遥か手前から歩行者空間に回避するのが当然でしょう。
「スピード落とせ!」+「とまれ」
安全にスピードを出せる構造を工夫しないで、
最初から安易に警告サインに頼っちゃってますね。
縁石の段差も酷いし、細街路に出入りする車との衝突リスクも有る。
これは自転車が自歩道を避け、車道を走る要因になっています。
ハイヒールでママチャリに乗っている人でさえ車道を走行。
(上の写真の近くの場所で、道路の反対側です。)
(上の写真の近くの場所で、道路の反対側です。)
設計者は全く分かっていないようですが、
このような下り坂では自転車でも 50 km/h は出ます
(ロードバイクで現地の車道部分を走行して確かめました。)
つまり、車道と全く同一の高規格な構造が必要なんです。
2014年8月1日追記
自転車の速度計は車の速度計と違って非常に正確なので、
50 km/h と表示されていれば本当に 50 km/h です。
一方、車の保安基準では速度計が 50 km/h を指示している時の
実際の速度は 40.0〜53.2 km/h の範囲に有れば良く、かなり大雑把です。
ところが、問題の屈曲箇所の設計速度は(推定で)7 km/h。
実に 43 km/h も過小な見積もりです。
2014年9月1日追記
{
うーん、上の文章はやっぱりちょっと言い過ぎかな。}
50 km/h 出るとは言っても、下り坂に入る前の平坦区間から
青信号のタイミングを見計らって全力で加速して 50 km/h だからなあ。
ママチャリのような転がり抵抗の大きな自転車で
重力による自然な加速に任せた場合なら、せいぜい 30 km/h、
もっと坂が急な場所でも 40 km/h くらいで頭打ちでしょうね。
ただ一言補足するなら、この写真の場所は
買い物自転車が頻繁に行き交うような環境ではなく、
街と街のあいだに位置する場所なので、
通勤自転車としては時間の稼ぎどころです。
こういう区間で安全にスピードを出せる事が、
都市交通の中での自転車の優位性を引き上げてくれるわけですから、
「自転車の利用促進」を謳うなら、
を確保して欲しいところです。
- 車にも歩行者にも邪魔されない自転車専用の空間
- 広くて滑らかな路面
- 街路樹や標識の支柱に遮られない見通しの良さ
歩行者が居ないのに、何だこの異様な広さは!
屈曲の手前のバス停部分です。
例の如く自転車通行空間は途絶しています。
この付近は鉄道駅や商店街から離れていて
歩行者は疎らにしか通らず、歩道空間はダダ余りしています。
これだけ空間が有り余っていて
まともな自転車通行空間の一つも作れないとか……。
一体どれだけ土地を無駄遣いすれば気が済むんだ。