2013年11月29日金曜日

蛍光色のウェアは意味が無い?

ぼんやりと信じていた常識を、ふと疑ってみる。
そんな切っ掛けになるかもしれない研究結果が発表されました。

2013年11月26日
High vis clothing doesn't make cars pass you more safely, says new study
「蛍光色の服を着ても車の反応は変わらず」と新たな研究結果

Small but potentially lethal number of drivers
will pass too close whatever you wear
少数の攻撃的なドライバーはサイクリストが何を着ているか
とは無関係に自転車の横スレスレを追い越して行く



If you feel like some drivers will pass too close no matter that you wear and that you’re being given less space on the road than you used to, a new study says you’re right, and indicates very strongly that you’re not safer if you wear high-vis in the daytime.

自分がどんな服を着ているかに関わらず、
一部のドライバーは他のドライバーより
狭いスペースしか取らずに追い越して行く気がする
——その印象は正しい。新たな研究結果によれば、
日中に蛍光色の服を着ても安全性は向上しない可能性が高い。

な、なんだってー!

……。

でも夜間はドライバーからの発見が早まるから安全だよね?

(ちなみに自転車から見た場合、ランナーの服の色は
白だろうが黒だろうが大差は有りません。ライトの光が弱いので、
白い服でも、かなり接近するまで闇に紛れてしまうからです。
LEDなどの自発光アイテムや面積の大きな再起反射材は
比較的早い段階で発見できます。)

Researchers from the University of Bath and Brunel University found that no matter what clothing a cyclist wears, around 1-2% of drivers will pass dangerously close when overtaking. They also found that compared to Transport Research Laboratory findings in 1979, drivers today on average pass 61cm (2ft) closer to cyclists - 118cm compared to 179cm.

バース大学とブルネル大学の研究者は、
サイクリストがどんな服を着ているかに関係なく、
ドライバーの1, 2%は危険な追い越しをする事を発見した。
研究グループはまた、交通調査研究所の1979年の調査結果と比較して、
今日のドライバーが以前より平均で61cmも
サイクリストの近くを追い越すようになっている事を発見した。
追い越し時の側方間隔は以前の179cmに対して現在は118cmである。

服の色や反射材の有無に関わらず、常に横スレスレを追い越すドライバーが
少数ながら居るというのは、東京での私の実感とも良く一致します。

ただ、それ以外の平均的なドライバーは、反射材を付けた場合に
より多くの側方間隔を取って追い越して行くという印象が有ります。

統計を取ったわけではなく、あくまで主観ですが、
「視認性を高める工夫は無駄ではない」というのが私の見方です。

The researchers conclude that there is little a rider can do, by altering their outfit or donning a high-visibility jacket, to prevent the most dangerous overtakes from happening. Instead, they suggest, if we want to make cyclists safer, it is our roads, or driver behaviour, that need to change.

研究者は、危険な追い越しをされない為に
自転車の乗り手ができる事は限られていると結論付け、
サイクリストの身の安全をこれ以上望むのであれば、
変えるべきなのは寧ろ、道路〔の構造〕や
ドライバーの態度であると示唆した。

人間の態度はそう簡単には変わりません。
という事はやはり、サイクリストの安全性と安心感を
共に改善させるには、道路構造の改良が確実でしょう。

The research was conducted by Dr Ian Garrard from Brunel University and the project led by Dr Ian Walker from Bath University. Ian Walker is famous as the sometime wig-wearer who discovered in 2006 that cyclists are afforded more space by drivers if they appear to be female or are not wearing a helmet.

実験を行なったのはブルネル大学のイアン・ギャラード博士、
プロジェクトを主導したのはバース大学のイアン・ウォーカー博士である。
ウォーカー博士は2006年の研究で、女性に見えるサイクリストや
ヘルメットを被っていないサイクリストに対しては、
ドライバーがより多くのスペースを取ると発見した事で有名な、
かつてはカツラを愛用していた人物である。

この段落、突っ込みどころが多すぎる(笑)
自ら体を張って女装したんでしょうか。
したんだろうな。したんだろうよ。

In this study, the two Dr Ians were trying to find out if drivers gave cyclists more room depending how skilled and experienced they looked. They expected that drivers would give more space to a rider who seemed inexperienced and less space to a rider who looked highly skilled.

二人のイアン博士は研究で、サイクリストの服装の違いが、
自転車を追い越すドライバーが取る側方間隔に
どの程度影響するかを調査した。博士たちは、
初心者らしい服装のサイクリストに対して
ドライバーがより多くのスペースを与えるだろう、
反対に、熟練者らしい服装のサイクリストには
より少ないスペースしか与えないだろうと予想した。


Dr Garrard used an ultrasonic distance sensor to record how close each vehicle passed during his daily commute in Berkshire and outer London. Each day, he chose one of seven outfits at random, ranging from tight lycra racing cyclist clothes (signalling high experience) to a hi-viz vest with “novice cyclist” printed on the back (signalling low experience).

ギャラード博士は超音波距離センサーを使って、
バークシャーとアウター・ロンドンで、博士自身の日々の通勤時に
追い越し車との側方間隔を一台ずつ記録した。
博士は毎日、7種類の服装をランダムに選んで着用した。
一例を挙げれば、ライクラ素材のレーシングウェア
(熟練者である事を示す)や、「新米サイクリスト」と背中に
プリントされた蛍光色のヴェスト(初心者である事を示す)などである。

博士が纏った7種類の服装

日本の自転車ツーキニストとは随分と違いますね。
こんなに蛍光色の比率高くないよ。
向こうでは一般的らしいですが。

ちなみに向こうで「ライクラ」と言うのは
日本語で「レーパン」と言うのに近いイメージのようです。

He sometimes also wore a vest that said he was video-recording his journey, or a vest modelled on a police jacket but with “POLITE” printed on the back. He rode the same bike, in the same way, every day and over several months collected data from 5690 passing vehicles.

この他にも博士は時々、録画中である事を訴えるヴェストや、
警察のジャケットをモデルにしたヴェスト
(但し背面には POLITE と書かれた物)を着用した。
博士は毎日同じ自転車で同じ道を走り、数ヶ月間掛けて
5690台の追い越し車のデータを集めた。

イギリスには POLICE Witness というサービスが有るそうです。
車や自転車に車載カメラを取り付け、事故の瞬間を録画すれば、

警察の現認が無くても(!)

加害ドライバーに違反点数や罰金の制裁を下せるというもので、
録画映像を元に警察や保険会社との交渉を代行してくれるようです。
まるで訴訟大国アメリカのようなビジネスだ……。

車の場合は後部窓にシールを、自転車の場合はジャケットを着て、
録画中である事を他者にアピールする仕組みのようですね。

ロンドンでこのサービスの認知度がどの程度かは知りませんが、
論文では「"POLICE Witness" の "POLICE" の部分に
ドライバーが反応するのではないか」と書かれていたので、
"POLITE" と同類のネタか……。

The vest that mentioned video recording persuaded drivers to pass a little wider on average, tallying with anecdotes from helmet-cam users that drivers behave better when they know they are being recorded. However, there was no difference between the outfits in the most dangerous overtakes, where motorists passed within 50 cm of the rider. Whatever was worn, around 1-2% of motorists overtook within this extremely close zone.

録画中であると書かれたヴェストは、平均すると僅かに広い間隔を
ドライバーに取らせた。これは、ヘルメットマウントのカメラを
使っているサイクリストの経験談(ドライバーは録画されていると
知るとおとなしくなる)とも一致する。しかし、自転車から
50 cm 未満の距離を掠める非常に危険な追い越しの場合では、
服装による違いは見られなかった。どのような服を着ても、
概ね 1 から 2 % のドライバーは、この非常に危険なゾーンを
侵して追い越して行った。

日本だと「50 cm ぐらい普通じゃないか」という声が
聞こえてきそうで怖いです。というのも、

札の辻交差点の自転車レーン

幅員が 60 cm 有るかどうかという極めて狭い自転車レーンを、
この国の役人は平然と作るからです。
安全マージンの意義をまるで分かっていません。

ちなみに、アメリカの幾つかの州やフランスでは、自転車を追い越す車に
1.0 から 1.5 m(または 3 から 4 feet)以上の側方間隔を取るよう、
法律で義務付けています。

【国際比較】自転車を追い越す際の側方間隔

Dr Ian Walker said: “Many people have theories to say that cyclists can make themselves safer if they wear this or that. Our study suggests that, no matter what you wear, it will do nothing to prevent a small minority of people from getting dangerously close when they overtake you.

イアン・ウォーカー博士は言う。「多くの人は、サイクリストが
これとかあれを着れば自分で安全性を高められるという自説を持っている。
我々の研究が示唆するのは、何を着ようが関係無い、服装の選択では、
ごく一部のドライバーが危険な近さで追い越して行くのを
防げないという事だ。

“This means the solution to stopping cyclists being hurt by overtaking vehicles has to lie outside the cyclist. We can’t make cycling safer by telling cyclists what they should wear. Rather, we should be creating safer spaces for cycling – perhaps by building high-quality separate cycle paths, by encouraging gentler roads with less stop-start traffic, or by making drivers more aware of how it feels to cycle on our roads and the consequences of impatient overtaking.”

つまり、サイクリストが追い越し車に脅かされる事態を止める策は、
サイクリストがどうこうできる範囲の外に在るという事だ。
こういう服を着なさいとサイクリストに言っても、自転車の安全性は
改善できない。むしろ、我々はサイクリストの為に安全なスペースを
確保すべきだ。それは例えば、質の高い分離型自転車レーンを整備するとか、
交通が激しくなく、信号機も少ない道の利用を推奨するとか、
道路を自転車で走行するのがどういう感覚なのかをドライバーに
意識させるとか、辛抱できずに無理な追い越しをした結果どうなるかを
知らしめる、といった手段が考えられる。

裏道の通行を推奨するかのような案が紛れ込んでいますが、

これは駄目です。

表通りより狭く、信号が無いとなれば、
交差点での出会い頭衝突のリスクが大幅に高まるからです。
この博士は成城警察署と全く同じ愚を犯していますね。

The researchers point out that while they found that wearing high-visibility clothing made no difference to the space left by overtaking drivers, they did not try to find out if it made cyclists more visible at junctions or at night.

研究者たちは、蛍光色の服が自転車を追い越すドライバーの取る
側方間隔に何ら影響力を持たないとしつつも、それが交差点や
夜間に於ける視認性を向上させるか否かについては調べていない
と指摘した。

もし夜間でも関係ないとなったら、
ブルヴェの装備規定も変わってしまうんでしょうか。
仮にそうなったとしても、
縁起担ぎの意味で着続ける人が多いとは思いますが。

However, they note that there is surprisingly little evidence that high-visibility clothing for cyclists and motorcyclists offers any safety benefits in daytime. This would further support the idea that there is no easy fix for riders’ safety from asking them to wear bright clothing.

しかし、日中に関しては、サイクリストにとってもドライバーにとっても
視認性の高い衣服に安全上の利点が有るという証拠は極めて少ない
と博士たちは言う。これは、明るい色の服を着るように勧めるといった
小手先の対応では、サイクリストの安全は確保できないという考えを
支持する事にもなるだろう。

ロンドンではサイクリストの死亡事故の続発を受けて、
警察や市長や交通局があの手この手の対策を打っていますが、
どれも本質を外しているという痛烈な批判を浴びています。

蛍光色の服もその一つで、いくら視認性が高かろうが、
大型トラックの運転席から見て死角に入ってしまえば
意味が無いじゃないかと一蹴されています。

そんな愚策を弄してないで、
さっさとまともな自転車レーンを作れと。

The reduction in average passing distance between 1979 and today “could be a result of greater traffic volumes since the 1970s,” say the researchers, “or reduced levels of bicycling which mean that the average motorist is less likely to have experience of bicycling themselves, and so is less understanding of a bicyclist’s needs.”

追い越し時の側方間隔の平均値が、1979年の値から減少した事については、
「70年代以降の交通量の増大の結果だろう」と研究者は言う。
「でなければ、自転車の利用水準の低下が原因かもしれない。
それはつまり、平均的なドライバーは自転車に乗った事が無く、
サイクリストの感覚に対して無理解になっているという事だ。」

後者の仮説は日本でも成り立ちそうですね。
自転車に乗る人こそ多いですが、歩道ではなく車道を、
しかも日常的に走っている人はまだまだ少数派です。

It occurs to us that it could also be linked to the increased width of modern cars. A 1979 Ford Escort Mk II was 1570mm wide (5ft 2in) while the modern equivalent Ford Focus is 1823mm wide (5ft 11 1/2in). However, Ian Walker points out that there was no difference in passing distance between wide four-wheel drive vehicles and standard cars in his 2007 study.

また、筆者には、現代の車の車体幅が以前より拡大している事も
関係が有るのではないかと思われる。1979年のフォード・エスコート Mk II
は 1570 mm 幅だったが、現代の同クラス車であるフォード・フォーカスは
1823 mm 幅だ。しかし、イアン・ウォーカー博士は、2007年の研究では
大型の四輪駆動車と標準サイズの車に、追い越し時の側方間隔の違いは
無かったと指摘する。

日本だとどうでしょう。
支配欲を煽る威圧的なデザインのミニバンや、
中年成金に大人気の大型高級セダンを考えると、
車種の分類の仕方によっては、有意差が出るかもしれません。

(ミニバンは警察も護送用に使ってますけどね。
あまりにも模範的な運転をしているミニバンがいたら、
もしかしたらドライバーは警察関係者かもしれません。)

ちなみに今回の論文の博士は以前、"White Van Man"(白い軽貨物の野郎)
として忌み嫌われているドライバー属性に着目して、彼らが本当に
他の道路利用者の安全を脅かす運転をしているのかどうか、
今回と同じく超音波距離センサーで調査しています。

参考ページ
Overtaking bicycles in the UK: Cars versus white light-goods vehicles

The paper - The influence of a bicycle commuter’s appearance on drivers’ overtaking proximities: An on-road test of bicyclist stereotypes, high-visibility clothing and safety aids in the United Kingdom - will be published in the journal Accident Analysis and Prevention.

今回紹介した論文、「自転車通勤者の服装がドライバーの
追い越し時の近接度に与える影響:サイクリストの典型像と
視認性の高い衣服と安全装備の、英国公道に於ける一実験」は、
『事故の分析と予防ジャーナル』に掲載予定。

論文はこちらで全文がダウンロードできます。