2014年4月15日火曜日

「再生可能エネルギー」は文法違反

すっかり定着してしまった感のある
「再生可能エネルギー」という表現ですが、
これ、どうにも馴染めません。

誤訳だという指摘も有りますが、
それ以前に日本語として間違っていると感じます。

問題の肝は「可能」という語の意味制約です。



「再生可能エネルギー」は誤訳ではないかという指摘は、
雑誌『オルタナ』の「編集長インタビュー: 鎌仲ひとみ氏」で
取り上げられています。

森: 大意を言うと、再生可能というのは、使ったエネルギーが自然にまた復活して使えるようになる意味だから、ありえない話なのです。それで英語でRenewableという意味をその人が改めて大きな辞書で調べたのです。そしたら、その意味は「再生可能」ではなく、「とてつもなく大量にあって、ほぼ無尽蔵にあって、いくら使っても減らない」という感じだったそうです。

「再生」という事象叙述の対象を
「使ったエネルギー」と捉えるなら確かにおかしな表現ですが、
「(その)エネルギー源の総体」と捉えるなら、
論理的には破綻しなくなります。

例えば、風車の羽にぶつかってくる空気の分子の一粒一粒は、
自分のエネルギーを羽の回転運動に渡してしまえば、それっきりです。
しかし、風は次々発生して吹き寄せて来ます。
ですから、その地域に吹く風をひとまとめに捉えれば、
「再生」と言えなくもないでしょう。

(尤も、日本語の発想としてそのような集合名詞的な捉え方が
自然にできるかどうかという問題は有りますね。)

それから、根拠として挙げられている辞書の記述ですが、
幾つかの英語の辞書を見比べると、renewable の定義には
大きく分けて二つの類型が有る事が分かります。
(ここでは「契約更新」などの意味は除外します。)


Collins English Dictionary
1. (ecology) renewable resources are natural ones such as wind, water, and sunlight which are always available

Macmillan Dictionary
renewable energy and natural materials replace themselves by natural processes, so that they are never completely used up
The wood in our furniture all comes from renewable sources.

renewable energy (=forms of energy for providing electricity, for example from the sun or wind):
They are at last beginning to invest in renewable energy.

Longman Dictionary of Contemporary English
2. [usually before noun] renewable energy replaces itself naturally,
or is easily replaced because there is a large supply of it:
  • renewable energy such as solar power
  • an industry based on renewable resources

The American Heritage Science Dictionary
Relating to a natural resource, such as solar energy, water, or wood, that is never used up or that can be replaced by new growth. Resources that are dependent on regrowth can sometimes be depleted beyond the point of renewability, as when the deforestation of land leads to desertification or when a commercially valuable species is harvested to extinction. Pollution can also make a renewable resource such as water unusable in a particular location. Compare nonrenewable.

Cambridge Business English Dictionary
› [NATURAL RESOURCES], [ENVIRONMENT]
relating to forms of energy that are produced using the sun, wind, etc., or from crops, rather than those using fuels such as oil or coal:
renewable electricity/fuel/power
renewable materials/resources

Sorghum is a brand new cash crop that can be burned as a fuel and is therefore a renewable source of energy.

「大量に有るので無くならない」系と
「使っても自然に増える」系ですね。

森氏が伝え聞いた所の「大きな辞書」は
二つの意味の片方しか押さえてませんから、
辞書としては片手落ちです。


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で、私が問題にしたいのは、
「再生可能エネルギー」という表現そのものが
(翻訳の正誤とは無関係に)
日本語の文法に違反しているという事です。

「再生可能」という複合語は「再生 + 可能」と分解できますが、
私の感覚では、この文脈の「再生」に「可能」を付ける事はできません。

まず、上に引用した英語の renewable の定義からも分かるように、
「再生」という動作の主語は「エネルギー自身」、または「自然」です。
人間ではありません。

しかし、複合語の後部要素としての「可能」は、
主語が「意思を持った主体」であり、
修飾対象の述語が「意思を伴った動作」でなければおかしい
というのが私の文法意識です。

例えば、

「破壊可能」とは言えますが、
「崩壊可能」とは言えません。

「理解可能」とは言えますが、
「失念可能」とは言えません。

「受容可能」とは言えますが、
「被災可能」とは言えません。

「降下可能」とは言えますが、
「転落可能」とは言えません。

(「可能」ではなく「可能性」となると話は別です。)

「再生可能」の場合で考えてみると、「自然増殖する」
という意味での「再生可能エネルギー」は文法違反ですが、
「この瓦礫は機械で加工すれば建築資材として再生可能だ。」
という文脈なら、「再生可能」は
人が +{瓦礫を + 再生させる事が}+ できる
という意味構造になるので文法に合致します。

一方、英語の接尾辞の -able は日本語の「可能」とは文法が異なり、
無意思の動作主、無意思の動作にも使えてしまうので、
-able と付く語を何でもかんでも「○○可能」と訳していると、
「再生可能エネルギー」のような
文法違反の表現が出てきてしまいます。


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じゃあ renewable energy は、
結局どう訳せば良いんでしょうね。