逆走行為の捉え方や対処法はとても合理的です。
アームスフォートの駅前通りで2003年に行なわれた
一つの改修事例からそれを読み取ってみましょう。
※今回の記事は以前公開した『自転車の安全鉄則』のウソ (3)
の最後の方に書いた部分を独立させ、少し加筆したものです。
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(情報源:Fietsberaad)
アームスフォートの駅前通り(Barchman Wuytierslaan)は元々、
一方通行の自転車レーンが車道の両側に設けられた構造でした。
1996年、駅前のバス・ターミナルの改築に伴って、
Barchman Wuytierslaan の北側の自転車レーンが一部撤去されると、
駅から西に向かう自転車は途中で車道を横断しなければならなくなりました。
ところが多くの自転車利用者が規制を無視して
南側の自転車レーンを逆走したため、
地元当局は2003年、北側の自転車レーンを撤去し、
南側の自転車レーンを2.0mから3.5mに拡幅した上で
双方向通行の自転車レーン(fietspad)に作り替えました。
Barchman Wuytierslaan, Amersfoort
幅員に余裕が有るので、並んでおしゃべりしながら走れる。
ちなみに自転車の並走はオランダでは合法(RVV 1990, 3条2項)です。
(Google Street View より)
幅員に余裕が有るので、並んでおしゃべりしながら走れる。
ちなみに自転車の並走はオランダでは合法(RVV 1990, 3条2項)です。
(Google Street View より)
オランダでは自転車のルール違反が少ないのではなく、
ルール違反をしなくても良いように、
自転車の都合に合わせてインフラを改良している。
その事を雄弁に語るエピソードですね。
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オランダの道路インフラの背後には
Sustainable Safety(持続する安全性)という設計指針が有り、
その根幹を為す思想として、
Man is the measure of all things
人が万物の尺度である
という言葉が有ります。元々は古代ギリシャの哲学者、
プロタゴスが言った、哲学的に深い表現ですが、
ここではオリジナルの意味とは関係無くて、
人(の身体的弱さや遵法精神の脆さ、限界の有る注意力)
に合わせてインフラを作ろう
という程度の意味です。
過去の関連記事
Sustainable Safety って何だ?
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自転車レーンを双方向化したら事故が増えるのでは、
というのが良く有る懸念ですが、この道路では1998年以来、
事故は一件も起こっていないそうです。
細街路との交差部分
(Google Street View @ 52.152613,5.368258 より)
(Google Street View @ 52.152613,5.368258 より)
普通なら事故が起こりそうな、
自転車レーンと細街路が交差する部分です。
道路全体から見て逆走方向になる自転車は
ドライバーから見落とされる危険が大きいですが、
自転車レーンが双方向通行である事を現わす標識と路面標示が
ドライバーの注意を喚起しています。
さらにもう一つのポイントは、
車道と自転車レーンの間の緩衝帯です。
これにより、メインの道路から細街路に入る車は
後続車の進路を塞いでしまわないかと気にする事無く、
自転車レーンの手前で落ち着いて一時停止する事ができます。
(車と自転車の動線の交差角度も90度に近くなるので、
ドライバーが自転車を視認しやすくなる効果も有ります。)
逆に細街路からメインの道路に出てくる場合は、
自転車レーンを一旦横切ってから車道の手前で一時停止できます。
ドライバーの注意力のリソースが使い尽くされないように、
安全確認させる場所・タイミングをうまく分散していますね。
(但し、この交差点では緩衝帯の幅が狭いので、
一時停止スペースとしてはやや不足しています。
望ましいのは車一台分が収まる約5mの長さです。)
自転車レーンを大きく湾曲させる事で
車の為の充分な一時停止スペースを確保した交差点の例
(これはアームスフォートではなくセルトーヘボスです。)
2014年4月21日追記
併せて読んでほしい外部ブログの記事を紹介します。
Pedestrianise London(2014年2月28日)双方向と一方通行それぞれの利点と欠点をまとめています。
Bi-directional vs Single Direction Cycleways
コメント欄の議論にも要注目です。