オランダ語の独習を続けています。
学習を始めた時の記事はこちら。
その後、大学の語学の授業の10倍速くらいのペースで
ガンガン進めているのですが、入門書として
「この構成はどうなんだ」とか「これは分かりにくい」
という箇所が結構出てきます。
1. 格変化が小出しで全体像が摑みにくい
ラテン語やサンスクリット語を勉強したときは
名詞の格変化は最初から全部覚える流れでした。
例えばサンスクリットなら
数が3種類
(単数・両数・複数)
格が8種類
(主格・対格・具格・与格・奪格・属格・処格・呼格)
の3×8=24変化を全部です。
オランダ語は両数が無く、格も4つ(一部の代名詞で5つ)だけですが、
本書ではまず主格だけ、次に対格だけと
小出しにするので、格変化の体系の全体像が摑みにくいです。
というか、「格」という用語すら使わない方針のようです。
本書では1つの課に短い会話と単語、文法解説を入れて
4ページにまとめるという基本形式を取っていますが、
これだと融通が利かないので、小出しにせざるを得ないのでしょう。
学習項目ごとに課の構成もページ数も柔軟に変えたら良いのに。
2. 音声が付いていない箇所が多い
練習問題や文法解説の部分のオランダ語は
CDに収録されていません。これは非常に残念です。
本書の発音表記は大部分がカナ表記なので全く参考にならず、
正確な発音を知る唯一の手立ては、
CDに収録されたネイティブの音声という状況なのですが、
その肝心の音声が入っていない箇所が多いです。
これは特に、カナ表記が本来の発音と懸け離れている場合(*)に、
それをチェックする手段が無いという点で大問題です。
* 例えばp.34に「voetbal(フッドバル)」という振り仮名が
有りますが、CDの音声では「ヴットボウ」に近く聞こえます。
語学本の割りには随分と綴りに惑わされたカナ表記です。
3. IPAが音素表記にすらなっていない
p.15の発音解説にこんな事が書いてありました。
発音記号では[ɔu]ですが、「アウ」と発音します。
発音記号の意味ねえええええええええええ
文句だけ垂れても面白くないので、今度は
日本とオランダの文化差を感じ取れた部分を取り上げてみます。
1. アンネの日記
日本では普通「アンネ」と表記しますが、
これは元の綴りのAnneをローマ字読みしたもので、
CDの発音では「アネ」の方が近かったです。
これは「へぇ」でした。
「姉の日記」か……。
同様に、画家の「フェルメール」も
「ヴルミーアル(男性話者)」
「ヴァーミーヤ(女性話者)」
と、日本語の慣例表記とは全然違う発音でした。
2. 道案内のしかた
語学入門書では定番の会話場面ですが、
本当にこういう道案内の仕方をするのかなあ。
p.89
それから2番目の道を左に曲がってください。
オランダではどんな小さな通りでも
基本的に名前が付けられていますから、
「2番目の道」のような案内はしないのでは?
どうも、日本的な発想で考えられたように思えます。
日本ではほとんどの道が無名ですから。
ああ、オランダ行った時、現地のおじいちゃんに道を聞いたのに
どういう案内だったか忘れてしまった。もったいない。
3. 音声記号の使い方
オランダ語にも母音の長短の対立が有りますが、
それは持続時間だけでなく、張り/緩みの違いも伴っています。
例えば [ɛ] と [eː](または[eɪ])など。
この対立をオランダ語の辞書、例えばこちらの辞書では、
[ɛ] と [e] で表記しています。[ː] は使われていません。
持続時間はあまり重視されていないようです。
対して本書では [ɛ] と [eː] で表記しています。
(正確には [ː] ではなく [:] で代用していますが。)
日本語では母音の長短の区別が主に持続時間に拠っている(*)ので、
それがあまり重要ではないオランダ語でも、
音声表記についつい [ː] を使ってしまうのでしょう。
* 副次的にはピッチ下降も識別に使われています。
これは英語の語学教材でも全く同じ構図ですね。
ほんと、日本人は [ː] が好きだなあ。
逆に言えば、オランダ人は日本人ほど
母音の持続時間の違いに敏感ではないので、
[ː] を見てもその意味がピンと来ないのかもしれません。
オランダ人ではありませんが、以前会ったカナダ人の留学生が
「病院」と「美容院」の区別で甚く苦労していました。