安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン(PDF)
を読んで、問題が無いか1ページずつ確認していくシリーズです。
今回は、ガイドラインの冒頭付近に
重大な問題が有った事に気付いたので、
巻き戻して指摘します。
以下、ページ番号はPDFファイル上の番号基準です。
紙面のノンブルとは一致していません。
p.21
1)交通状況を踏まえた整備形態の選定
自転車は「車両」であるという大原則に基づき、
自転車が車道を通行するための道路空間について検討するものとする。
このシリーズを書き始めた当初は特に違和感は有りませんでしたが、
考えてみれば「自転車は車両」というのは人為的な分類に過ぎず、
別に絶対的なものではありません。
「車両なんだから車道を通行しろ」と言うのは、
現状の分類を鵜呑みにした無責任なものに思えます。
そうでないと言うなら、単に法的観点だけでなく、
安全工学や心理学な面でも十分な合理性を示せないと駄目です。
今までの議論は、道路空間を「歩道」と「車道」に二分して
「歩道か車道かで言えば、車道の方が安全」
と言っているに過ぎず、旧来の発想に縛られたままです。
表1から表2になっただけで、空間カテゴリの数は変わっていません。
車道 | 歩道 | |
自動車 | 自転車 | 歩行者 |
↓
車道 | 歩道 | |
自動車 | 自転車 | 歩行者 |
私は、自転車は歩行者とも車とも違う第3の交通モードであり、
(本当は自動車の方が後発なので自転車は第2ですが)
それに合わせて道路空間にも3つのカテゴリーを用意すべきだと思います。
車道 | 自転車道 | 歩道 |
自動車 | 自転車 | 歩行者 |
これを基本として、例えば歩行者の少ない田舎では
車道 | 自転車道 | (なし) |
自動車 | 自転車 | (なし) |
としたり(*)、商店街や住宅街で意図的に車を排除して
(なし) | 自転車道 | 歩道 |
(なし) | 自転車 | 歩行者 |
とする事が考えられます。
* 日本では道路の利用実態に関わらず
一定規模以上の道路には一律に歩道を整備してきましたが、
歩行者が極端に少なく、自転車がそこそこ通る道なら、
車道と自転車道だけを整備し、歩行者には
自転車道を歩いてもらうのが最も合理的です。
実際、オランダの法律にはそのような規定が有ります。
Reglement verkeersregels en verkeerstekens 1990 (RVV 1990)
交通規則・道路標識法 1990(略称:RVV 1990)
Artikel 4
- Voetgangers gebruiken het trottoir of het voetpad.
- Zij gebruiken het fietspad of het fiets/bromfietspad indien trottoir en voetpad ontbreken.
- Zij gebruiken de berm of de uiterste zijde van de rijbaan, indien ook een fietspad of een fiets/bromfietspad ontbreekt.
日本語に訳しました↓
第4条
- 歩行者は歩道か歩行者専用道路を利用すること。
- 歩行者は、歩道か歩行者専用道路が無い場合は
自転車・モペッド道を利用すること。- 歩行者は、自転車・モペッド道も無い場合は
車道の端を利用すること。
そして実際に、車道の横に歩道が無く、自転車道だけの道路が存在します。
図1 バス停から右は自転車道(赤)だけが続く道路
(Google Street Viewより)
歩道が有っても自転車道に比べてかなり狭い場合も有ります。
図2 自転車道(赤)に比べて狭い歩道(灰色)
(Google Street Viewより)
もちろん、自転車道が無く、歩道と車道だけの道路も有ります。
図3 歩道と車道だけの道路
(Google Street Viewより)
問題は視覚障害者や車椅子利用者の利便性ですが、
そうした人たちが付き添い無しに自力で
郊外の道を何キロも移動するでしょうか。
これには異論も有るでしょうが、ここでは
一つの考え方として提示したいと思います。
ガイドラインに戻ります。
今回一番注目したいのが整備形態の選択基準です。
自転車道、自転車レーン、車道混在のどれを選ぶかという事です。
p.21
この場合、「車道を通行する自転車」の安全性の向上の観点から、
自動車の速度や交通量を踏まえ、自転車と自動車を分離する
必要性について検討するものとする。
車の
- 速度
- 通行台数
とんだ大馬鹿野郎ですね。
これだけで「役人は自転車なんかどうでもいい疑惑」確定です。
実際に常日頃、自転車で車道を走っている方なら
分かると思いますが、自転車通行インフラを
- 自転車道
- 自転車レーン
- 車道混在
路上駐車需要の有無
です。
道路の或る区間に路上駐車需要が有るなら、
たとえ車の流れが遅くても自転車道にすべきです。
自転車レーンでは路駐でレーンが塞がってしまい、
整備した意味が無くなってしまうからです。
図4 駐車帯と化した自転車レーン(札の辻)
図5 路駐に塞がれる自転車レーン(幡ヶ谷)
図6 自転車レーン上で休憩する路駐車両(千石)
図7 横断歩道直近の自転車レーン上にも路駐(西葛西)
図8 来店客や荷捌きの車で埋まった自転車レーン(西葛西)
図9 車や原付が路上駐車(西葛西)
図10 大きな死角を生む、カーブ内側での路駐(西葛西)
図11 出会い頭衝突を誘発する路駐(西葛西)
路上駐車需要が有る区間には自転車道を整備すべきです。
図12 路駐に塞がれる事の無い自転車道
(Google Street Viewより)
(Google Street Viewより)
逆に、路上駐車需要が無い区間なら、多少車の流れが速かろうが、
少し広めの自転車レーンを設置するだけで事足ります。
(もちろん、そのレーンが歩道より圧倒的に快適だと
利用者が実感できるようなものである事が条件ですが。)
図13 路駐が存在しないクリアな通行環境
車の通行が稀で、速度もかなり低い裏道の場合は、
ガイドライン通り、混合通行型でも問題ありません。
むしろその方が通行実態に合っています。
わざわざ自転車レーンを引く意味が有りません。
図14 自転車レーンより混合型の方が適した裏道(西葛西)
以上見てきたように、自転車の通行空間を
車道から物理的に区分する必要が有るかどうかの判断では、
路上駐車需要の有無が非常に重要になります。
しかし、自転車レーンが路駐に塞がれるという実態が
各所の道路から散々報告されながら、
国交省はその知見をガイドラインに全く活かしていません。
初歩的かつ重大なミスです。
ガイドラインの続きです。
p.21
具体的には、図I-3に示すように、自動車の速度が高い道路(A)では、
自転車と自動車を構造的に分離するものとする。
また、速度が低く自動車交通量が少ない道路(C)では、
自転車と自動車は混在通行とするものとする。
その中間にあたる交通状況の道路(B)では、
自転車と自動車を視覚的に分離するものとする。
なお、速度としては規制速度を用いるものとするが、
規制速度の見直しの検討等を行っている道路や
速度規制が行われていない道路等については、
当該道路の役割や沿道状況を踏まえた上で、
必要に応じて実勢速度を用いるものとする。
このとおり、路駐問題には全く触れていません。
「その中間」なんて言うのは思考停止の証拠ですね。
しかし問題はこれだけでは有りませんでした。
p.21
1 交通状況を踏まえた分離の目安
分離に関する目安としては、地域の課題やニーズ、
交通状況等を十分に踏まえた上で、以下を参考に検討するものとする。
(自転車と自動車の構造的な分離の目安)
・自動車の速度が高い道路とは、自動車の速度が50km/hを超える道路とする。
ただし、一定の自動車及び自転車の交通量があり、
多様な速度の自転車が通行する道路を想定したものであるため、
交通状況が想定と異なる場合は別途検討することができる。
(自転車と自動車の混在通行の目安)
・自動車の速度が低く、自動車交通量が少ない道路とは、
自動車の速度が40km/h以下かつ自動車交通量が4,000台/日以下の道路とする。
なお、上記の自転車と自動車の構造的な分離の目安に
該当しない道路においても、自転車の安全かつ快適な通行に
支障を及ぼす程度の自動車交通量がある場合には、
通行の整序化を図るため、
自転車と自動車を構造的に分離することができる。
また、上記の自転車と自動車の混在通行の目安に
該当する道路においても、自動車の安全かつ円滑な通行に
支障を及ぼす程度の自転車交通量がある場合には、
通行の整序化を図るため、
自転車と自動車を視覚的に分離することができる。
路駐因子の無視という致命的な欠陥が有る一方、
基準外の場合の構造的な分離は自由裁量になってます。
国交省でさえグダグダなのに、それ以下の自治体が
こんなん読んで「分離しよう」と思うでしょうか。
もっと強制的な姿勢を出した方が良いんじゃないですか?