2013年8月31日土曜日

郵便自転車

昔、年賀はがきの配達アルバイトをしていました。




アルバイト配達員には赤色の郵便自転車が用意されていたのですが、
今思うと、あの自転車はかなり贅沢な造りでした。

ペダルもクランクも回転が非常に滑らかで、
部材の剛性の高さ、ベアリングの質の高さを感じさせます。

銀色のハンドルバーは完璧な鏡面に磨かれ、
フレームの赤い塗装は傷一つ無い光沢を放ち、
大型のベルは「リンゴーン」と優雅な音で鳴りました。

ホイールは振動吸収性が高く、フリーのラチェット音もほぼ無音。
車道を走ると、まるで湖面を滑っているかのような乗り心地です。


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ただ、何から何まで良い事尽くしではありません。

郵便物は箱に詰めて後ろの荷台に積むだけでなく、
専用の鞄に入れてハンドルバーに吊るす事もできますが、
鞄とハンドルバーの固定は金具を引っ掛けるだけの簡単な構造なので、
鞄の中身が軽いと走行中の振動で外れてしまい、
郵便物を路上にぶちまける事になります。


まさに「郵便屋さん、落とし物」です。 


当事者になって気付きましたが、あれはかなり胃が縮みますね。
情報秘匿義務が有るので、「拾ってあげましょ」とも行きませんし。

また、鞄をハンドルバーから取り外した状態で走行すると、
低速時に前輪がやたらとフラつくという問題も有りました。
ステアリング周りの剛性が低かったようです。

(以前、ママチャリを軽量化しようとして
金属製の泥よけと前カゴを取り外した事がありますが、
その時も同様に前輪がフラついてしまいました。
重量部品の慣性モーメントで誤摩化されていたようです。)

郵便自転車の最大の問題点は車重が重すぎる事です。
臨海部の築地のような地形で使う分にはどうでも良い事ですが、
坂の多い地域で配達する場合はかなり体力を使います。

配達コースの途中で、坂の上の家にはがきを一枚配達し忘れた時は、
たった今下ってきたばかりの坂を見上げて自分の確認不足を恨みました。

郵便物を満載した重量級の自転車はまた、転倒すると非常に危険です。
ショーウィンドウの前には絶対に停めないようにと指示されていました。


車体の後方には片足のキックスタンドと両足スタンドの両方が
取り付けられていて、好きな方を選べるようになっていましたが、
坂道の途中では片足スタンドを立てても自転車がズルズル後退してしまうので、
私は両足スタンドを常用していました。

その両足スタンドがまた剛性感あふれる代物で、
重い車体を持ち上げながら堅いバネを押し下げるのは
時間も体力も食う作業です。

自転車をこまめに移動させながら配達すべきか、
それとも一ヶ所に停めて自分の足で走り回るべきか、
ノウハウが無い中でかなり試行錯誤していました。


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配達中に面白い出来事も有りました。

信号待ちの時にちょうど新聞配達の自転車と並んで、
青に変わってからヨーイドンと走り出したのですが、
新聞配達の方が低速でも明らかにケイデンスが高く、
郵便配達より低いギヤ比だという事が分かりました。

(どちらもシングルスピードです。)

重量物を運搬するという点では同じなのに、
なぜ新聞と郵便でギヤ比が違うのか、未だに謎です。