2014年10月12日日曜日

土地が公有じゃないからインフラ整備が進まない?

オランダでは殆どの土地が公有だという事を
小林正樹さんのツイートで初めて知って驚いたんですが、
だから日本では蘭並のインフラ無理などというつもりは毛頭ないが、
蘭より遥かに時間も手間もかかるのは確か。
という部分については微かに引っ掛かるものを感じました。



実際に個別の整備事例で
計画から完成までどれだけの時間と労力が掛かっているのか、
日本とオランダを直接比較をしたわけではないので、
今回の記事では間接的な話しかできません。(ツッコミ待ちです。)


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Mark Wagenbuur さんのブログに、
オランダは如何にしてその自転車インフラを手に入れたのか
という、車から自転車への転換期を解説した記事が載っています。
この記事に寄せられた読者からのコメントの一つに、

... Didn’t the removal of space of cars cause claims that it would kill the city centres?

車の空間を奪えば中心市街が衰退すると主張する声は上がらなかったのか?

というのが有りました。
これに別の読者が答えています。

Of course it did, and still does, even in David’s Assen where a much overdue renovation of a main street is held up by endless palavers with shop owners. Even when experience elsewhere says otherwise, the loss of passing cars and parking spaces is seen as damaging. But as politicians and city planners usually listen to more parties concerned, the change will be made eventually.

もちろん反対は有ったし、今も依然として有る。デイヴィッドが住んでいるアセンでさえ、商店主たちとの終わりの見えない議論で、目抜き通りの改修が大幅に遅れている。他の場所での成功事例が有っても尚、車の通行と駐車空間を失う事は損害に繋がると思われているんだ。それでも政治家や都市計画者たちは大抵、様々な立場の関係者の意見を聞くから、最終的には転換を成し遂げるだろう。


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1970年代のフローニゲンでも似たような対立が有りました。


Groningen: The World's Cycling City from STREETFILMS on Vimeo.

車中心の都市構造から転換し、
歩行者と自転車の優遇に舵を切ろうとした当時、
フローニゲンの商店主たちは計画に反対していました。
(3:08辺りから)
The shopkeepers said "we will leave the city immediately."
... everyone must park in front of our door
otherwise we will loose all our business.

商店主たちは「〔そんな事をするなら〕すぐに街を出ていくぞ。
店の前に車を止められないなら商売上がったりだ」と言っていた。
(この部分は音声からの書き起こしなので間違いが有るかもしれません。)


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CROW (2007) Design manual for bicycle traffic の p. 18 には
自転車インフラの立案から完成までの流れが図示されていますが、
このフロー図では
  • 調査(research and inventory)
  • 設計(analysis and design)
  • 協議(consultation and decision-making)
という3本の軸が最初から最後まで途切れず続いているのが印象的です。

計画のあらゆる段階で、住民や利害関係者に
何度も何度も意見を訊いて、それを逐一
調査や設計にフィードバックしながら進める。
必要が有れば一つ前の段階に立ち戻ってやり直す。

インフラ設計の実務は、このように一歩一歩
順を追って進めるものだと本文(p. 19)も強調しています。

In practice, the design procedure is of a highly cyclical nature.

間接的にですが、これらの資料からは
オランダも苦労しているように見えます。


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一方、日本では自転車インフラの整備は
どんな理由で反対されているのか。

森栗茂一さんのブログに幾つかの事例が纏められています。
http://morikuri.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/65-656d.html

  • クルマが渋滞して商店街に来る客が減った
  • 荷捌き不便と反対
  • ドライバーたちからはさんざん「税金の無駄遣い」と悪罵
  • 必要のない自転車レーンを1.5km作るのに約1000万円かかる
  • 途中で自転車レーンが途切れて、歩道に上がるよう指示する矢印→指示に従って歩道に上がるためには段差を乗り越えなければならない⇒自転車レーン使われず

「荷捌きが不便」という反論に対しては、
自転車道と車道の間に荷捌き空間を兼ねた緩衝帯を挟めば済む話です。
(空間制約が厳しいなら、自動車交通を沈静化して車道混在型にする。)

2014年10月13日追記{
緩衝帯はオランダのように車道から嵩上げして縁石で区切る方式も有れば、
ニューヨークのように既存の路面に導流帯をペイントするだけの方式も有ります。
カナダでは駐輪ラックや花壇を置いて緩衝帯としている例が有ります。



オランダ、ユトレヒトの Amsterdamsestraatweg の車載動画

 「段差を乗り越えなければならない」というのも
設計の配慮で克服できる課題です。

「税金の無駄遣い」という(些か感情的な)非難に対しては、
社会の持続可能性やモーダルシフトの意義を
丁寧に説明すれば理解が得られるかもしれません
(が、過去に明らかに無駄な公共事業をしてきた
自治体であれば、まずは信頼を築き直す所からですね)。


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ここまでは、土地が私有か公有かは
あまり関係無いように(私には)思えます。

寧ろ、利害関係者との地道な協議を省いたり、
設計を煮詰めないまま計画を進めてしまった結果ではないでしょうか。
国交省のガイドラインに縛られて、それ以外の発想ができないなど。)


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問題は「客が減った」という反論です。

例えば中心市街から何キロも離れた郊外に(行政の都市計画に反して)
  • 新興住宅地が造成されてしまった
  • 大型ショッピングモールが開店してしまった
結果、地域の車依存度が高まり、中心市街での歩行者・自転車優遇策が
裏目に出る状況になっているのであれば、これは確かに大変です。

(一方のオランダは土地が公有である事を活かして
都市のスプロール現象を上手く抑制しているようです。
国内を列車で移動すると、駅を発車してすぐに
田園風景が車窓に飛び込んできます。)


ただ、自治体自身も目先の利益に捕らわれて
郊外開発に乗り気だったとすれば、やはり自業自得ですね。

WEDGE Infinity の2014年10月06日の記事には、
当初の目標を見失って相矛盾する施策を立ててしまう
地方の話が出てきます。

迷走するコンパクトシティ 維持費と借金が地方を苦しめる
地域活性化の現実を見よ(3)木下斉×飯田泰之 (全4回) p. 4

木下:人のいる街中どうしをつなぐのであれば、まだ意義はわかるのですが。路面電車を整備しながらも、さらに「自動車を使う人にも配慮した設計を」とか言い出してしまうし。

飯田:何にでも配慮しますよね(笑)。そもそもコンパクトシティは選択と集中の話なんですから、平等なわけがない。というかどの地域にも平等ならそれはコンパクトではないですよ。


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まとめ

土地が公有ではない事は、自転車インフラを整備する上で、
  • 巨視的な地域レベル: 施策の基礎条件を厳しくする
  • 微視的な道路レベル: あまり関係無い
んじゃないかな?
と思うんですが、どうでしょう。