2014年10月9日木曜日

ハンプの種類と名前

朝霞市上内間木のハンプ(旧型)

住宅街などで車の速度を抑える為に設けられるハンプには
いろんな種類が有りますが、混乱を招くような
名前が付けられているので、ちょっと整理してみました。



speed hump, undulation
車の速度を抑制する為に車道の路面を瘤状に隆起させた構造。
縦断面の形状には円弧やサイン曲線など、幾つか種類が有る。
初期に用いられていた円弧形状はホイールにガツンと来るので乗り心地が悪い。
現在はサイン曲線が使われている。



speed table, trapezoidal hump, plateau
中央に平らな区間を設けた隆起構造。
最後の plateau はフランス語なので、複数形の語尾は -x。
英語圏では -s も複数語尾として使われる。

日本語では「台形ハンプ」と呼ばれるが、
幾何学的に厳密な意味での「台形」とは限らず、
前後のスロープ部をサイン曲線などにしたものも有る。
てっぺんの平らな区間は乗用車のホイールベースが収まる長さが一般的。
通常のハンプよりも設計速度の高い路線に適している。

嵩上げ部分の左右の端は排水路(街渠など)に向かって
切り下げており、この点が次の raised crossing と異なる。



raised crossing, raised crosswalk
スピードテーブルの平らな部分に横断歩道を設けたもの。
スピードテーブルと違って、車道の端で落ち込まず、
歩道まで平面で続いている。
歩道と同じ高さまで嵩上げするので、
通常のスピードテーブルよりも嵩上げ量が大きい。

構造上、そのままでは降水時に水が歩道に溢れてしまうので、
坂の途中に設置する場合は坂の上側に雨水管の口を開ける必要が有る。



raised intersection, raised junction, intersection hump
交差点全体を嵩上げする構造で、交差点の各枝の入り口に
スロープを設ける。嵩上げ部分は歩道と同一平面まで持ち上げず、
それより僅かに低い高さまでにして、視覚障害者に
交差点の車道部分を分かりやすくする事も有る。



bypass
車と自転車が混在通行する道路、或いはレーンにより視覚的に分離した道路で、
元々速度の低い自転車がハンプを通らなくても済むように、
ハンプの左右に設ける自転車用の通路。
車がすり抜けられないように通路幅は1.2〜1.5 m とし、
縁石やボラードで物理的に区分する。

路駐車両がバイパスの出入り口を塞いでしまう事が有るので、
駐車対策も合わせて実施する必要が有る。



関連資料

アラスカ州アンカレッジ自治市の資料
http://www.muni.org/Departments/works/traffic/Documents/Policy_Manual_03_10_Section_6.pdf
基本的な分類と構造の解説。

オーストラリアの自転車環境向上団体、Bicycle Network
https://www.bicyclenetwork.com.au/general/better-conditions/2839/
自転車用バイパスに関する知見。

CROW (2007) Design manual for bicycle traffic, p.156
自転車への優しさを考慮した車の速度抑制構造が表に纏められている。

島田 歩、坂本邦宏、久保田尚、高宮 進、石田 薫
据付型ハンプの形状に関する実験的研究
『土木学会第55回年次学術講演会』(2000)

古賀 勝喜、清田 勝
速度抑制デバイス(ハンプ)の振動特性
『低平地研究』No. 16, 2007, pp. 19-24

渡辺 義則、清田 勝、寺町 賢一、出川 智久
サイン曲線弓形と台形という形状の違いがハンプ上を通過する小型貨物車から発生する衝撃音へ与える影響
『交通科学』Vol. 40, No. 2, pp. 111-118 (2009)
途中に平らな区間を挟んだ形状のハンプの方が
跳ね上がったタイヤが着地する時の騒音が小さいという実験。

市原 慎介、吉田 進悟、小嶋 文、久保田 尚
ハンプの短区間連続設置における周辺環境への影響および有効性の検証
『土木計画学』67(5), pp. I 1165-1172 (2011)
ハンプ自体で騒音や振動が出なくても、
通過後の再加速が騒音として住民に認識されてしまう問題に、
ハンプを立て続けに設置する事で対処を試みた実験。

秋元祐太朗、石井健太、小嶋崇央、李慶嘉(2012)
筑波大学のハンプは必要?
ハンプを避けて反対車線にはみ出す車がほぼ半数、など、
人間の本性がストレートに現われた調査結果が多数。
路線バスの運転手にさえ大して自制心を期待できない事が分かる。



尤も、速度超過を不快感で押さえ込もうとするのは、
問題解決の手法としては「浅い」ですね。

鉄道のATS-STやATS-P、ATCのように、
速度照査によって制限速度以上のスピードを
原理的に出せなくする方が、より根源的な対策です。

私にはどうしてもハンプが美しい解法には見えません。



過去の関連記事