社名に selle を冠したブランドが幾つか有りますが、
日本では何故か「セラ」と誤表記・誤発音されています。
selle は「サドル」という意味の女性名詞・複数形で、
単数形は sella です。発音はそれぞれ、
selle ['sɛlle](セッレ)
sella ['sɛlla](セッラ)
です。
(イタリア語では、複数形は -s を付加するのではなく、
語尾の母音を変化させる事で作ります。)
日本国内では、公式的な立場である輸入代理店の深谷産業が
selle ITALIA を「セライタリア」と表記しているので、
そこから下流側は販売店から消費者に至るまで、
誰もこの誤表記・誤発音を信じて疑わないようです。
どうして「セラ」にしてしまったんでしょうね。
そのままローマ字読みすれば正解だったのに。
せっかくなので、本物のイタリア語発音を聴いてみましょう。
selle ITALIA 社による公式動画です。
SLR サドルのモノリンクモデルを紹介する動画で、
冒頭の10秒間に sella と selle の両方が発音されています。
やっぱり selle は「セッレ」ですね。
ついでに言えば、selle ITALIA は「セッレイターリア」でした。
なんだよ、全然「セライタリア」じゃないじゃん!
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さて、ここから先はちょっと専門的な余談です。
日本語の「エ」に対応するイタリア語の音素には
開口度の大きい /ɛ/ と開口度の小さい /e/ の2種類が有ります。
但し、この2つはアクセントが無い音節では区別されません。
selle の場合は1つ目の e にはアクセントが有りますが、
語尾の -e にはアクセントが有りません。
なので、語尾の -e は
2013年10月11日 訂正
Wikipedia には、[ɛ] で発音される事は無く、
[e] または [e̞] が使われるとの記述が有りました。
"selle ITALIA" を連続して発音する場合は、
-e の直後に開口度の小さな i- が来るので、
この -e は逆行同化(*)で [e] になります。
(* 次に来る音声を予測して舌や口の構えが早めに変化する現象。)
上記動画の音声の "di selle ITALIA" 部分を Praat で分析した結果
['sɛlle] の [ɛ] のフォルマント周波数(区間平均)
- F1 : 648 Hz
- F2 : 1833 Hz
['sɛlle] の [e] のフォルマント周波数(区間平均)
- F1 : 442 Hz
- F2 : 2113 Hz
語尾の -e の方が F1(開口度と対応する指標)の値が
下がっている事が分かります。