2013年2月8日金曜日

変わった時制・アスペクトの命令表現

日本語で聞かれるちょっと変わった時制・アスペクトの
命令文・命令表現の用例メモ。主にアニメと小説から。



凡例

出典
用例
時制とアスペクト(*)
{過去/現在/未来} 動作が起こった時間上の位置。発話時点基準。
{完了/未完了} 一つの動作として完了しているか否か。
{瞬間/継続} 動作、またはその結果生じた状態が継続{する/している}か否か。



西尾維新 2009 『難民探偵』 講談社 初版1刷
p.152
「誤魔化すって、なんだよ。俺がいつ、お前のことを誤魔化した。
いい加減なことを言ってるんじゃないぞ。誤魔化しはぐらかしを生業(なりわい)とする
お前みたいなぬらりとした奴に、そんなことを言われる覚えは俺にはないぞ」
現在、未完了、継続

「いってんじゃねえ」は普通だが、音便の無い形は珍しい。



西尾維新 2011 『花物語』 講談社
p.232
「うん。強いて言うなら今度、部屋を片付けに来てくれ」
「そこを真っ先に卒業してろ
未来、完了、継続

部屋を散らかしてしまう癖を直せ(=卒業しろ)という意味で。



西尾維新 2011 『囮物語』 講談社
p.204
人をなんだと思ってんだ――人形か何かか!?
はっ……どうせ俺様は可愛いだけだよ、
何を言われたって言われるがままだよ!
だけど、だからって何も感じてねーわけじゃねえぞ!
おとなしい奴が、本当におとなしいと思ってんな
現在、未完了、継続

おとなしい人物だと思って気安く扱うのは止めろという意味で。
これ、どう発音するんだろう。アクセントが直感で分からない。


EurekaSeven AO 第1話
「あんまりフラフラしてんなよ」
未来、未完了、継続

目的の物を探してくる間、ここで待っていろ
と、主人公がもう一人に念を押す場面。
ちなみに同じ第1話で別の登場人物が
「(この船の)子供たちに何か有ったら」
「いま何か有っているのは、岩戸島の子供たちだと思うがな」
という台詞を発してもいる。



おおきく振りかぶって 夏の大会編 第9話
「くだんねえこと言ってんなよ」
現在、未完了、継続

一般的な「言ってんじゃねえよ」と違い、助動詞の「た」を挟まない否定命令。



以下、出典不明


こまけー事気にしてんな
現在、未完了、継続

細かい事を気にしている目下現在の態度を止めろという意味。

それくらい知っとけよ
現在、完了、継続

現時点に至る以前にその程度の知識は身に付けているのが当然だ、
という非難の意味、だった気がする。


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メモ

命令文が指し示す動作の発生・存在時点は過去・現在・未来どれでもあり。
但し、アスペクトの制限はそれぞれ違う。

過去命令は、現在完了形(「ている」、「ておく」など)である事が条件(?)。
この場合、補助動詞の[±意志性]はもしかしたら結構自由かもしれない。

現在命令は、命令対象の動作が今存在している事が前提なので、禁止命令のみ。
従来の「~してんじゃない」の時制は、形式的には現在に縛られていない。
「~してんな」の時制は、形式的にも現在に固定されている。

未来命令は、命令対象の動作にどんなアスペクトでも指定できる(?)。


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こういう新しい言い回しに触れると、
脳内の文法がアップデートされるのを実感する。
擬人化ならぬ擬コンピュータ化するなら、こんな感じ。

新しい日本語文法定義ファイルが見付かりました。
「命令文_時制・アスペクト拡張_1」をダウンロードしています……
インストールが完了しました。