片側二車線以上の道路では、自転車は
- 車線の中央を走っても良い。
- 車に追い付かれても道を譲る必要は無い。
(但し、私はそうした走り方を推奨はしません。)
(初めに断わっておきますが、以下述べるのは
「車線」の中央であって「車道」の中央ではありません。
またこの記事では「車線」を
の意味で使っています。)
- 車両通行帯が有る道路の場合は「車両通行帯」
- それ以外の道路では「縁石or車道外側線と中央線で挟まれた空間」
まず、世間で良くある誤解に
自転車は常に車道の左端に寄って走らなければならない
というものが有りますが、道路交通法には、
(左側寄り通行等)
第十八条
車両(トロリーバスを除く。)は、
車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、
自動車及び原動機付自転車にあつては道路の左側に寄つて、
軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、
それぞれ当該道路を通行しなければならない。
ただし、
は、この限りでない。
- 追越しをするとき、
- 第二十五条第二項若しくは
第三十四条第二項若しくは第四項の規定により
道路の中央若しくは右側端に寄るとき、- 又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないとき
/*以下略*/
と書かれているので、
車道の左端に寄って走らなければならない
のは、
- 車両通行帯の無い道路で、且つ
- 止むを得ない事情が無い場合
に限られます。
(車両通行帯が有る道路とは、片側二車線以上の道路の事です。)
2015年2月19日訂正
片側に二車線以上有るだけでは車両通行帯になりません。公安委員会が車両通行帯として指定して初めて法的に有効な車両通行帯になります。但し、指定の有無は道路の見た目だけでは判断できません。
日本の道路交通法では「止むを得ない事情」が何かを例示していません。
(警察の広報資料では、例えば路上駐車で車道の左端が塞がっている場合、
歩道に上がれば回避できるので、「止むを得ない」事情には当たらない、
というような解釈が使われているようです。……路駐の多い道路を
通行するのにどれだけ時間と手間を掛けさせるつもりなんだか。)
しかし、アメリカの一部の州、イギリス、フランスなどの交通法では、
- 道路の端の歩行者、自転車、車、動物、物などを避ける必要が有る
- 道路の端の路面状態が悪く、事故に繋がる恐れが有る
- 車線の幅が狭く、自転車と車が安全に並進できない
などの場合を挙げています。ちなみにこれらの国では、
車が自転車を追い越す際に3~4 feetまたは1~1.5mの側方間隔を
取る事を求めているので、自転車と車が安全に並進できる車線幅とは、
- 自転車の車体幅 0.6m (カーゴバイクなどは除く)
- 側方間隔 0.9~1.5m
- 車の車体幅 1.8~2.5m (軽自動車~大型車両。サイドミラー含む。)
の計3.3~4.6mに、縁石から自転車の左までの間隔と
車の右から区分線までの間隔を適宜加えた値になります。
まあ、大体4.8~6.1mくらいでしょう。
2013年2月23日 図を追加
例えばこうです。上から順に、
道路標示の白線、車(ミニバン)、自転車、側溝(街渠)と縁石です。
仮にこれを日本の道路に当て嵌めて考えると、
自転車が
車道の左端に寄って走らなければならない
道路はかなり限定されます。
ただ、現実に判断をするのは日本の警察です。
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次に、これもまた広く流布している誤解ですが、
自転車は車に追い付かれた場合、必ず
左に寄って車に道を譲らなければならない
というものが有ります。これについて道路交通法には
(他の車両に追いつかれた車両の義務)
第二十七条
/*中略*/
2
車両(乗合自動車及びトロリーバスを除く。)は、
車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、
最高速度が高い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央
(当該道路が一方通行となつているときは、との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地が
当該道路の右側端。以下この項において同じ。)
ない場合においては、第十八条第一項の規定にかかわらず、
できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない。
最高速度が同じであるか又は低い車両に追いつかれ、
かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに
十分な余地がない場合において、その追いついた車両の速度よりも
おそい速度で引き続き進行しようとするときも、同様とする。
と書かれているので、片側二車線以上の道路では
道を譲る必要は有りません。
ただこれ、ちょっと困った事に想定が甘いんですよね。
まず、こんな場合。
- 片側二車線の道路
- 第二レーンは渋滞して全く流れていない
- 第一レーンは比較的空いている
- 二つのレーンは前方の交差点で方向別レーンになる
(だから第二レーンだけが渋滞している)
幾ら譲る必要が無いからといって、こういう状況で
第一レーンを自転車でゆっくり走り続けるのは流石に微妙です。
それから、こんな場合。
- 片側一車線の道路
- 車線(車道の端から中央まで)の幅は3.0m
- 対向車線は渋滞していて車で埋まっている
この場合、法的には自転車は左端に寄って
後続車に道を譲る義務が有るんですが、
たった3.0mの幅で
- 自転車 0.6m
- 車 2.1m (大型セダン。サイドミラー含む)
に並んで通れってんですか?
2013年2月23日 図を追加
仮に3.0 - (2.1 + 0.6) = 0.3mの余裕を
縁石―自転車―車―中央線の「―」部分に均等に振り分けたとしても、
自転車と車の間隔は10cmしか取れませんよ?
(これは自転車のペダル漕ぎ運動に伴って生じる
走行軌跡の左右ぶれの振幅より小さいです。)
先の「左端に寄る」規定と、この「道を譲る」規定の
優先関係がどうなっているのかは分かりませんが、
2013年2月9日追記
見落としていました。第27条にちゃんと、
第十八条第一項の規定にかかわらずと書いてありますね。つまり、車道の左端に寄るのが
如何に危険であろうと、問答無用で道を譲れという事です。
少なくとも単体で見た限り、この「道を譲れ」規定は
道路交通法の目的と矛盾してます。
(目的)
第一条
この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、
及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。
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さて、以上から、片側二車線以上の道路では
- 車線の中央を走っても良い。
- 車に追い付かれても道を譲る必要は無い。
の二点が合法である事が分かりましたが、
現実の道路でそのような走り方を勧められるかと言えば、
……あまり勧められませんねえ。
確かに、こうした走り方をすれば、歩道から飛び出す人と衝突するリスクや
後続車から見落とされるリスクを下げられる利点は有りますが、
- 大多数のドライバーが道路交通法の内容を正確に理解していない
- 少なからぬ数のドライバーが誤解に基いて攻撃的な運転をする
- 危険な運転を抑制する装置が車に付いていない
- 取り締まり人員が決定的に不足している
というのが現状である以上、
別の種類のリスクを生じさせてしまうのも事実です。
やるなら自己責任で。
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余談ですが、こんな事になってしまった原因の一端は
警察にも有るという事を指摘しておきましょう。
警察が作成している自転車のマナーポスターでは
上で紹介した道路交通法の規定に全く触れていませんし、
安全マージンを確保しながら走る事の大切さも全く訴えていません。
何かと言うとすぐ「徐行せよ」、「止まれ」で片付けてしまい、
走っている時の安全をどう確保すれば良いのか、
市民の間には全く浸透していません。
世に頻発する自転車事故の責任は、
その一部を警察に求めても良いと思います。