自転車の交通事故に詳しい弁護士で、自身のブログで
様々な助言や問題提起を発しています。
2012年4月の記事では、市内のループ(Loop)地区(*)の信号に
加えられた小さな変更点に触れていました。
* MS Flight Simulatorの嘗てのデフォルト空港の至近です。
シカゴ市交通局によれば、その目的は
歩行者の交通事故死を5年後に半減、10年後にゼロにする事。
どのような変更だったのでしょうか。
まずはシカゴ市交通局の広報冊子から。
PDFのp.26に概要が紹介されています。
Leading pedestrian intervals
What:
歩行者先行時間(leading pedestrian intervals, LPI)は、
交差点で歩行者が車より先に動き始められるようにする時間です。
歩道の「横断可」は車道の青信号より約3秒早く点灯します。
Where:
LPIは以下の場所で効果的なので、優先的に設置すべきです。
- 右左折する車に歩行者が撥ねられる事故が
3年間で4件以上起こっている交差点。- 学校、公園から60m以内の交差点。
- 右折(日本では左折)する車と歩行者の交錯が頻繁な交差点。
- 丁字路。
How:
LPIは信号機の設定変更で導入できます。
赤信号時の右折 /*日本には無いルール*/ は
LPIが導入された箇所では禁止すべきです。
但し、それが歩行者の安全に逆効果となる場合や、
交通流への影響が有る場合は除きます。
LPIの有る場所は、全盲や弱視の歩行者にも
それが分かるような仕組みが必要です。
歩行者の安全を確保する手法として、
この手法は低~中程度のコストが掛かります。
一番下の行のコスト言及は、
LPI以外の安全策を紹介するページにも
同様に書かれています。良いですね。
冊子には他にも、市民の生の声を大々的に載せたり、
洗練されたデザインで紙面を構成したりと、
「お役所仕事」の含意を全否定する質の高さです。
さて、具体的にはどうなるのか。
LPIが導入された交差点の動画が有ります。
横断歩道の先行時間は3~5秒、場合によっては10秒以上に
設定される事もあるそうです。
日本では車と歩行者の信号を完全にずらす
「歩車分離」式が稀に見られますが、
この方式が普及している香港を2011年8月に現地観察した限りでは、
車が右左折する時にスピードを落とさず、慎重さを欠く傾向が見られました。
最初の数秒のみを分離するLPIは一見中途半端に思えますが、
ドライバーに緊張感を持たせつつ安全を確保する点では優れています。
ノース・イースタン大学工学部の学生による解説では、
LPIの数秒間で横断歩道上に歩行者の流れが伸びるので、
右左折する車が先に行こうとしても既に進路が塞がれており、
止まらざるを得ない事が分かります。
日本でも良識有るドライバーはLPIが無い現状でも
交差点を曲がる時は徐行・一時停止して歩行者を優先しますが、
全員がそういう運転をするわけではありません。
威圧的なミニバンや大型セダン、
配達の遅れを取り戻そうとする軽ワゴン、
そもそも交通規則を軽視している二輪車は
しばしば弱者優先の原則を無視していますね。
LPIはこうした類いに真の優先順位を
意識させる道具としても機能するかもしれません。
それから、StreetsWikiによる解説記事では、LPIが当初目標とした
歩行者の安全確保以外に、歩行者と車の交錯が減った事で
交差点に対するドライバーの印象も良くなったと紹介されています。
記事はまた、LPI以外で有効な安全策として、
赤信号での右折(日本では左折)を禁止する事を挙げています。
これはシカゴ市交通局の冊子にも書いてありました。
時々、
さすがアメリカは合理的だ。などと言う人がいますが、アメリカ自身でさえ
日本も赤信号の時、左折できるようにすべきだ。
この特殊ルールの問題点には気付いています。
銃と車は軽々にアメリカの真似しちゃあいけません。